三月

文字数 750文字

 彼女はジュリー・マネによく似ていた。白い肌、丸みを帯びた笑うと横に広がる頬。細くて黒目が目立つ目。 
 北国から転校してきた彼女は、私と同じくあまり目立たない子だった。でも私より社交的で、ピアノが上手で、習字も上手かった。彼女は私に話しかけてくれた。お互いどうやら馬があったらしい。


 ある日、私が泣きながら帰っていた。何をされたかはまた覚えていないが、掃除用具箱に関する何らかだったらしいことは記憶にある。そのとき、
「私のことなんていいやん。ほっといて」と言った
私に、生まれて始めて、それは夢に見ていた小説の世界のように、
「ほっとけないよ、友達だもん」と言ってくれた。


私は、彼女なら信じていいのだと、他の人間のように疑うことも、縁が離れることを恐れなくてもいいのだと、体がそのとき初めて深呼吸できた。


 それ以来、放課後には一緒にポケモンカードやマリオのゲームをして遊んだ。ガスコンロでマシュマロを焼いて、焦げたのを見て笑った。帰りの会の後、彼女の赤いランドセルを引っ張って驚かすと、びっくりしながら笑った。私は彼女にタロット占いをしたりした。ポッキーをソーダにつけると美味しいと言って笑っていた。味の違いなんてわからなかったけれど、どうでも良かった。全て柔らかい日差しが射し込む彼女の家でのことだった。帰るときは、お互いマンションが隣同士だったから、姿が見えなくなるまで手を振った。獣医になりたいといった彼女に、私は学芸員になりたいといった。なるのは大変だけど、笑われるかもしれないけど、〇〇大学ー私が今在学している大学ーに行きたいと言うと、きっとできるよと言ってくれた。


 彼女は六年生の終わり、また転校した。梅の蕾はほころんでいたのに、この土地には珍しく雪が降る日、彼女は車に乗って、去っていった。
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