私と宝箱

文字数 1,668文字

「ママ、いいものみつけた。おかし、入ってるかな?」

「え! それ、どこから出してきたの?」
「ベッドのおへやの、ママのかがみのつくえのうえ。」
「人のものを勝手に持ってきてよかったのかな?」
「・・・ごめんなさい。だって、このかん、きれいでかわいいんだもん。」
「そうよね、可愛いね。・・・・でもね、お菓子は、むかーし、ママが全部食べちゃった。」
「えー! ずるーい。サキもたべたかったな・・・でもこのかんかん、なにか入っているよ。あけていい?」

 サキがお菓子缶を両手で振り、耳を傾ける。何やら、カタカタと音がする。
「サキにはまだ開けられないかな。ちょっと貸してごらん。」
 私は、缶を受け取り、片開きのフタを開け、サキに返す。

「サキ、何が入ってるかな?」
「んー、ちっちゃな、えほん!」
「そうだね、絵本だね。でもね、これはね、ママが初めて好きになった子からのラブレターなんだ。」
「ラブレター?」
「そう。『ママのこと好き』って伝える、お手紙。」
「えー、よんでよんで!」

 これを読むのは、いつ以来だろう。サキを膝の上に乗せ、ちょっとドキドキしながら絵本を手にする。

 私は、表紙の題名を読み上げる。
『Treasure Days』
「ママ、どういうこと?」
「んー、『宝物のような思い出』ってとこかな。」
 表紙には、缶のフタと同じく、手をつないだ、くまとロボットの絵。
 私は表紙をめくり、最初の見開きのページを読む。

『クミくまは、ロボケンがつくった、すなの、げつめんきちを、おもちだとおもって、こわしちゃいました。』
 砂場で月面基地を壊され、泣いているロボケンとそれを見て笑っているクミくま。

 ページをめくる。
『でも、ふたりは、すぐに、なかよしに、なりました。』
 クミくまとロボケンが並んでお弁当を食べている。

 次のページ。
『ある日、ふたりは、やまに、ぼうけんにいって、みちにまよってしまいました。こわかったけど、ふたりで、がんばって、たすかりました。』
 暗い山道を手をつないで歩くクミくまとロボケン。

 さらに、次のページ。
『だけど、クミくまは、よそにおひっこしすることに、なったのです。ロボケンは、クミクマがいなくなってから、もうあえないんだって、わかり、かなしくなりました。』
 手を振るクミくま、涙を流して、うつむくロボケン。

 さらにさらに、次のページ。
『でもね、クミくまはね、もどってきたんだよ。まえみたいに、なかよしできるね。』
 ハイタッチする、クミくまと、ロボケン。

 もっと、次のページ。
『じつは、クミくまは、また、おひっこし、しなければ、ならなかったのです。ふたりは、のこされたじかん、できるだけ、いっしょに、すごしました。』
 椅子に座っているクミくまの絵を描く、ロボケン。

 そして、おしまいのページ。
『いよいよ、おわかれの、ときが、やってきました。』
『さようなら。』
『いつか、あえるといいね。』
 手を振ってバイバイする二人。

 私が絵本を閉じると、膝の上に乗ったままサキが振り向く。
「ええ! さようなら、でおしまい? このえほん、ママがもらった、らぶれたーなんじゃないの?」
「そうよ。じゃあね、サキ。缶の中をよーく見てごらん。」

 サキは、お菓子缶を両手に持ち、顔を近づけて中を覗く。
 そして何かを発見し、引っ張り出す。

「あ、クミくまさんだ・・・あ、ロボケンさんもいるよ。」
 私の娘は、キーホルダーを二つ取り出し、両手でブラブラさせる。

「サキ、もう一回、缶の中をのぞいてごらん。」
 サキは、一枚のカードのようなものを取り出す。

「ママ、これなーに?」
「そうだね。コースターかな。お飲み物のコップをおくやつ。」

 そこに描かれているのは、向かい合って、キスをしているクミくまとロボケン。

 二人の横には、こう書かれている。

 “ ぼくは、わすれない。
  きみが、もし、わすれてしまっても、
  だいじょうぶ。
  こころの、たからばこから、
  いつでも、とりだせるよ。”


 サキは、ニコッとして私に聞く。
「ママも、キスしたの?」って。

 サキのご想像に、おまかせしよう。
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