ー1話 三本目の三回目

文字数 3,156文字

ありがとうございましたー
 様々な照明で照らされたコンビニから一人の青年が財布とビニール袋を持ちながら歩いてくる。その時の表情は、他人から見ても自分で見ても、きっと気分が良さそうとは思えない表情だっただろう。
あー・・・何やってんだ俺は
 蒸し蒸しとした暑さで意識が溶けそうになるような夜、俺はコンビニから出て数歩歩いた場所で立ち止まり、空を見つめながらそう呟いた。
 俺はもう高校三年生である。
 高校三年生ということは、周囲の友人、または同級生は全員将来に向かって勉強しているワケだが、なんと俺には夢がないせいで進路どころかなりたい職業もない。ので、どうすればいいのかわからず、今日もノートと教科書を開いたはいいが5分で飽きてしまい、そのまま逃げだすかのように外に飛び出しコンビニに入ったのだ。
 そしてそのコンビニの前で賢者タイムのようになっていたというワケだ。
将来の夢か・・・
 俺は地面を見つめながら歩き始めた。
 自分が将来どうなっているかなんて予想できない。何度か占いを頼って色々なナントカの館などにも行ってみたが、そこでそいつらが俺に指した道は全てバラバラだった。
 まあ元々期待もしていなかったし、どうせそんな結果になるだろうと考えていた。だがそれを信じた方が楽かもしれないと、自分の道は自分で決めるといういつかの頃に決めたモットーを切羽詰まった状況に押しつぶされて忘れてしまい、ずっと頭を抱えていたりもした。
得意な教科も体育だけでそれが5、だがそれ以外が全部2・・・どうしてだ
 ”どうしてだ”なんて言葉を口からこぼしたが、その理由は自分が一番良く知っていた。中学時代、暴れまわっていた頃に勉強の基礎の基の字も知らなかったし、知ろうともしなかったからだ。
結局、全部自分に返ってきただけか・・・はぁ
 力にしか頼れず、結局何もできなかった昔を思い出しながら俺はため息をついた。
・・・ん?
 突然周囲に何か違和感を感じた。まるで先ほどまであった物が亡くなってしまった損失感のようなものが心の中で響いたのだ。
 俺ははっとして周囲を見渡した。だがコンビニもある、道路もある、電柱や街頭もある。一体何がなくなって―――
・・・あれ、コンビニの店員は・・・?
 俺はコンビニのレジ付近を見つめていた、そこに店員の姿はない。だがコンビニでは店員がたまにレジで立っていない時がある、それが今たまたま起きただけだと思いたかった。だが、それだけが起こったとは思えない。
 俺以外の通行はいないのかと周囲を見渡したが、人も車も誰も通ってはいなかった。静まりかえった道路を街灯が音をたてながら照らし、何も通らない場所で赤信号が点滅するだけだ。
 この地域は都会とまではいかないが田舎でもない中途半端な街だ。それなりに人はいるので深夜12時になったからといって俺以外誰もいないというのはありえない、というか今までそんなことは一度もなかった。
な・・・なんだよこれ?どうなってるんだよ・・・!?
 この理解不能な状況が俺を包み込む中、ジリジリと気が付き近づき始めている事実に落ち着きを隠せなくなっていく。徐々に心拍数が上がっていくと同時に視界がゆがみ、足元がふらつき始めた。
私が貴方の場所をずらしたんだ
 突然の女性の声に驚き、反射的に声が聞こえた方向を向き、その瞳に映ったのは、15m先の街頭の真下にぽつんと突っ立っている女性だった。
 160cmほどの身長だろうか、それだけならまあまだいいのだが、驚くべき点はその人の外見だった。
 距離もあるし、暗くてよく見えないせいで詳しいことまではわからないが、鴉のような嘴がある鉄のような仮面を被り、またさらにその上からよくは見えないが大きな白い帽子を被り、蒸し暑い夜だというのになんと腕や足をスッポリと覆い隠すほどの長さがあるドレス、手袋もしており、左手には何か棒のような物を握っている。
・・・あ、あのー・・・今なんて・・・?
 聞こえてはいたが聞き間違いだと思いたかった。意味不明なことを話し始める人を前にして逃げ始めるなんざホラーゲームの定番、そんなことが現実であってほしくない。ドッキリであってほしい。
私が貴方の場所をずらしたんだ

だからここは貴方がさっきまでいたイデアとは別のイデア、そしてこのイデアには貴方と私しかいない

お、おう・・・そうなんだ!すごいねー!じゃあ俺帰るから!
 反応に困ることを言い出したので俺はとりあえずそれを無視して向いていた方向を変えて歩こうとする。そう考えながらまたコンビニのレジ付近をチラッと見たのだが、そこにはまだ店員はいなかった。
 こんな時期に長袖でドレスで仮面とか不審者しかない、さっさと帰ったほうがいい。そう考え、体を90度曲げた直後―――
もう時間がない
 そう言いながら女性は左手に握っていた棒から右手で何かを抜き取った。
 そこに握られていたのは、月光に照らされて紫色の光を放つ刀だった。
動かないで
動くに決まってんだろオオオオオオオ!!
 そう叫びながら90度までで止まっていた体をまた90度方向転換し、そのまま家に向かって全速力で走り始めた。
なんなんだよアイツ!?頭おかしいわ!!
 道路に沿いながら周囲の家や店を一軒一軒チラチラ見ながら走り回る。だが、そこに人の姿はどこにもなく、どれだけ走ってもどれだけ見渡しても誰もいない町がずっと広がっているのだ。
 体が徐々に疲れていき、ゆっくりと息が荒くなる。体は周囲の温度や湿度の影響もあり、とても熱く、そして汗でベタベタになっていた。
クッソ・・・!一体どうなってんだ!!
 分かれ道で一旦立ち止まり、後ろに不審者がいないか確認するために180度方向を回転させた。だが、そこに刀を持った少女はいなかった。
はぁ・・・はぁ・・・やっとまいたか・・・?
こっち
は?
 周囲を見渡そうとした瞬間、身体が突然宙に浮いたような感覚に包まれ、そのまま顔から地面に倒れこんだ。何が起こっているのかわからない、何かが流れる音、顔に付着する液体、激しい頭痛、ただ一つ分かることがあるとすれば、腕に力を込めても、いくら立とうとしても立ち上がれないことである。
 足に何かあったのか?と疑問に思い、視線を地面から足へと移した。

 両足の膝から下がなくなっていたのだ。
ひあっ・・・はっ・・・ああああああああああ!!!!??
 それと同時に痛みが足から徐々に湧き上がってくる。異常なほどに強い激痛に悲鳴もでず、ただただ掠れた声だけしか喉から出なかった。
ひッ・・・ひあっ・・・うゥ・・・・・アア
 鼻の奥まで血の匂いが回り、あまりの気分の悪さにその場で胃袋にあったものを地べたに全てぶちまける。口に残った胃液と血の匂いが混ざり合い、気分はさらに悪くなっていく。
―――三本柱の三本目
 少女はいつのまにか俺の顔を覗き込むように立ち意味不明な事を言いながら持っていた刀を俺の首元に押し当てる。
安心して―――死にはしない
 いやいやいや死にかけなんですけどと突っ込もうとしたが、声も出ない、意識も朦朧としている状態でそんなことを言える気力はなかった。
 視界がゆっくりと暗くなっていく、体も徐々に動かなくなっていく、足の痛みもなくなっていく。
 何が”死にはしない”なんだ?この状況で”はいそうですね”とは冗談であってもとても言えない。
いってらっしゃい
 そう言うと同時に首から何かか流れ出ていくような感覚を感じた。
 ああ・・・これもう死ぬわ・・・。
 意識が消えていき、真っ暗になっていく。ゆっくりと海底に沈んでいき、沈めば沈むほど体の機能は途絶えていく。
 海底が見えそうな気がした。だが、その直後だった。
 頭の中に先ほどの少女の声が響いた。
『ずっと待ってるから―――ワタシ達を殺しにきてね』
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登場人物紹介

主人公 ”俺(泥兵)” 

異世界に来てしまった際に自分自身の名前を忘れてしまい、体まで兜をかぶった泥人形というものに変わってしまっていた。

元いた世界でやりのこした事が沢山あるため戻ろうとするが、そのためには”元のセカイでの名前”が必要らしく、それを調べるには"全知の書"が必要らしいのでその本を探し始めた。

得意料理はオムライス、デトラに毎日三食食べさせている。


使える魔法?は”自己再生”

体が欠損したり吹き飛ばされたりしてもデトラの魔力があれば何度でもよみがえることが可能。ただし逆にデトラの魔力が尽きると体も再生しなくなりそのままただの泥に戻ってしまうらしい。

世界最強の 泥の魔女デトラ

俺を異世界に来させて泥人形にした挙句、俺に勝手に”泥兵(ドロヘイ)”と名前をつけた張本人だ。

身長は140cm、基本マイペースで面白いか面白くないかで全てを判断する無茶苦茶な思考の持ち主。何を考えているのかよくわからない。

母親から貰った目玉が着いた魔女帽子を大切にしている。

全身褐色肌なのに何故か右手だけ白い。

毎日三食オムライスなほどオムライス好きである。

デトラは自分の母さんの場所を知るために”全知の書”を探し始める。


使える魔法は”泥を自由に操る”

周囲にある泥を瞬時に固めて棒状に変形させて投げたり身を守るために壁を作ったり手のようにして物を掴むことも可能である。

泥鴉(ドロガラス)

基本マイペースで色々な場所を自由に飛び回っている泥の妖精。

体を筋肉ムキムキにしたり身体の4~5倍の大きさの物を運べたりと科学では説明できないこともできる。

俺はどこかで会ったことがあるような気がしたが本人は否定していた。

デトラがここに来る前からいたらしいが・・・一体何歳なんだ?

ベルティーナ

種族は半獣人らしく頭からは動物の角のようなものが生えている。

”謎の魔獣”を倒そうと仲間達を集めて戦ったらしいがベルティーナを残して全滅、辛うじて生きていた本人はそのまま川から流れてきた所を俺(泥兵)に発見させられる。話し方はデトラと違って丁寧だし露出度高めのボーイッシュなので良いと思う。


使える魔法は”千里眼”

”外道魔男” ”外道魔女”

魔法を使えるようになってしまい、奴隷や道具として扱われて世界に反発的な思考を持つようになってしまった魔法使いの総称。

様々な場所で虐殺行為や破壊活動をしているらしく、極めて危険らしい。


”魔法使い(魔男、魔女)”

 この異世界では魔法が使える人と使えない人が分かれており、俺のセカイでいう異能超能力系に近い。

 魔法が使えるようになることを”目覚め”というらしい。

 ”目覚め”た魔法はその人にしか使えない魔法であり能力が同じ人はその世界には存在しない。その能力が覚醒した女を魔女、男を魔男という。

 

 いつ”目覚め”てその印として右手にの甲にマークが浮かび上がるするかは人それぞれである。

 

 魔法には属性が7つ存在する。”烈火”水流”自然”闇”光”祝福”雷”虚空”―――それがこのセカイに存在していた魔法だが何故かそこには泥の魔女デトラが使う”泥”や”土”がない。


 デトラ本人はそれが何故か知らなかった。

 デトラとベルティーナは自分以外の魔女は初めて見るというほど魔女自体とてもレアなものだろう。


 魔法使いは場所によっては神と言われてあがめられるという、だが別の場所に行けば悪魔と言われて蔑まれたり、国同士の魔法使いの奪い合いで散々周囲の人間に引きずりまわされて一生を終える人も少くない。

 ”目覚め”を人工的に起こそうとするために残虐非道な実験を奴隷を使って行っていた国もあった。

 

 だから人によってはは魔法使いに”目覚め”てしまったことを”呪い”と言う人もいるそうだ。

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