第33話 自動販売機の噂

文字数 2,291文字

「おはようございます。高岡(たかおか)先生」

二年二組担任の大原(おおはら)が生徒指導の高岡(たかおか)銀二(ぎんじ)に挨拶をする。

「おはよう」

銀二(ぎんじ)は虫の居所が悪そうな顔で挨拶を返す。

「どうかしたんですか」
「最近、生徒に対して苦情の電話が多いんだ」
「どんな内容なんですか」
「学校帰りに自動販売機で飲み物を買っていく生徒が多いらしい」
「買い食いぐらいいいのでは」

私も覚えがあります、と大原(おおはら)は言う。

「飲めばいいんだが飲まずに捨てたり、ひどい場合は缶を投げたりするそうだ」
「それはいけないですね」
大原(おおはら)先生。二組にはあいつらがいるからしっかり指導して下さい」
「大丈夫ですよ。私は生徒を信じていますから」

二組から廊下に圭一(けいいち)の声が聞こえてくる。

「違うのでたら捨てればいいんだって」

銀二(ぎんじ)大原(おおはら)は苦笑した。


 大原(おおはら)は教室に入ると早速、話はじめた。

「みんなも知ってると思うが最近帰りに買い食いをしている人がいて──」

白瀬(しらせ)真美(まみ)大原(おおはら)の説明をさえぎり抗議する。

「でも、あそこで買ったのと違うのが出てきたら願い事が叶うんです」
「しかし近所の方に迷惑をかけているのも事実だから」
「それって横暴だと思います」
「ホントそうだよね」

西根(にしね)なずなも同調する。

「あいつら、ああいうの大好きだな」

海戸(かいと)は呆れながら真美(まみ)となずなを見ていた。
(しょう)海戸(かいと)(ゆう)に言う。

「何が出てくるんだろうね」
「違うのがでてくるって、ただの故障だろ」

はいはい、と(ゆう)が手をあげる。

「俺、やってみたいな!」
「じゃ、行くか」
「何が出るんだろうな!」

わくわくしている(ゆう)(しょう)が言う。

「すごくまずいものだったら、どうするの?」
「それで捨ててる奴がいるんだろ」

海戸(かいと)がさらりと言った。

 もうすぐ春とはいえ夜は寒かった。三人は自動販売機の前に来ていた。自動販売機は通りからいくらか離れたところに置いてあり今は誰もいない。

圭一(けいいち)君の話だと買うのが決まってたはずだけど」
「どれだ?」
「なあ。俺、今日金もってない」
「何しにきたんだよ」

小突き合う海戸(かいと)(ゆう)を放っておいて(しょう)は自動販売機の飲み物を読み上げていった。

「『メロンめろめろ☆ン』、『しるこ式』、『プリンどどっととっとき〜』、『牛さんのコーヒー』、『豆さんの牛乳』」

ほかにも個性的な飲み物が並んでいる。

「こんなの誰が買うんだ?」
「まずそうだな」

三人は顔を見合わせた。

「誰が買う?」

と、海戸(かいと)

「やっぱり買ったら飲まなきゃいけないよね」

と、(しょう)

「捨てるなんてことしたらモッタイナイお化けがでるぞ!」

と、(ゆう)

自然と(しょう)(ゆう)の目が海戸(かいと)に向いていく。

「何だよ」
海戸(かいと)!お願い」
「俺、金もってないし」
「お前ら……あとで覚えとけよ」

海戸(かいと)は少し二人をにらむと自動販売機を見つめた。

「……どれも嫌だな」
「見たこともないメーカーだね」
「これとかまだマシだと思うぞ」

(ゆう)は『メロンめろめろ☆ン』を指差した。
海戸(かいと)がボタンを押すと『しるこ式』が出てきた。
プルタブを開けて口をつけたが何も出てこない。穴からは甘い匂いがする。

「出てこないな」
「固まってるのかな?」
「いつのなんだろな」

次に海戸(かいと)は『プリンどどっととっとき〜』を押した。
『メロンめろめろ☆ン』が出てくる。

「これ飲むのか」

海戸は『メロンめろめろ☆ン』を飲んだ。甘すぎてはめまいがする。

「大丈夫?」
「海戸がメロメロだ」

次に海戸(かいと)は『豆さんの牛乳』を押した。『牛さんのコーヒー』が出てきた。海戸は『牛さんのコーヒー』を飲んだ。

「どんな味?」

(しょう)にきかれて海戸(かいと)は答える。

「ただのコーヒーだ」

飲み終わって横のゴミ箱に缶を入れた海戸(かいと)は舌を出す。

「もう無理!変わってくれ」
「こらっ!何してる!」

怒鳴り声に三人は振り返った。杖ついた老人が立っている。

「ここで何してる。どこの学校の子だ!」
蓮華(れんげ)中学。苦情いってるのって、あんたか?」

海戸(かいと)が言うと老人は声を荒げた。

「あたりまえだ!飲みもしないで捨ておってからに!だいたい、ここにはわしが置いたんだ」
「これ故障してるのか?買ったのと違うのが出てくる」

(ゆう)が自販機を指差しながら言うと老人はふん、と胸をはる。

「故障じゃない。わざとだ」
「わざとなんですか?」

(しょう)に老人はうんうん、と頷く。

「そう。もともとわしの楽しみのために置いてある。散歩の途中に買って帰るんだ。ちょっとした占いだ」
「どれもまずそうだけどな」

(ゆう)に老人は自信たっぷりに言った。

「うまいじゃないか。わしが考えたんだ」

老人はどこか誇らしげだ。

「さあ、帰りなさい。もういたずらするんじゃない」

老人にうながされ三人は帰ることにした。

「変なじいさんだ」
「あの名前もおじいさんがつけたんだよね」
「あのじーさんすごい金持ちなのかな」


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