第1話

文字数 1,706文字

 高校も二年になって、やっと寒さから脱却し始めたころ、SNSでよくあるあやしい噂が飛び交い始めた。

 一つ、自動製氷機に頼らず、〈必ず自分の手〉で氷を作る。 二つ、極稀に氷の中に星のような光を閉じ込めた氷が、一回に一つだけ出来る。 三つ、赤なら今の自分の正直な心の内が、青なら氷を作った時に心に留めた人物の心の内を知るところとなる。 四つ、重要事項として、氷の確認は、本人以外でもキューブの出現に支障はない。 五つ、心の内を暴く勇気がある猛者は、光るキューブを口に含むべし。

 実際に体験したという投稿がSNSランキングの上位を伺うまでに至った。しかし画像にキューブの光が映らないらしく、動画もあるが、信憑性が薄くなり体験談だけが独り歩きしている状態だった。 今年の夏は猛暑も相まって、自宅で製氷皿を使った氷作成が流行り、手軽になんちゃって〈光るキューブ〉を作成できるキットを販売した会社が、ネットニュースに取り上げられるほど大繁盛していた。

 授業中だというのにスマートフォンにメッセージが飛んできた。制服のポケットに入れたままで、うっかりバイブ機能をオフにするのを忘れたらしい。冷静でいられて良かった。窓際の隅の席で良かった。おれはガタイがいいから、挙動不審だと目立ってしようがないのだ。 見つかってしまったらカンニングはしていないが小テスト中だったので、テストは無条件でゼロ採点の上、反省文と親への連絡というフルコンボが待っている。お蔭で小テストへ向ける集中力が多少削がれてしまった。

 さもスマートフォンは今鞄から出しましたと装い、終わったテストを担任に提出して教室を後にした。うちのクラスはテストを提出後、教室から退出する決まりになっている。学校内にいる事が前提で、大抵は学食兼用のカフェテリアで時間を潰すのだ。この時、スマートフォンなどの持ち物の携帯は許されていた。

 授業時間終了まで十五分位だろうか、殆どの生徒がカフェテリア内の好きな席でお茶を飲むなり話をするなり自由に過ごしていた。おれはと言うと、友達数人とテストの答え合わせをしていた。別に勉強熱心ってわけじゃないが、付き合いも大切なのだ。

 授業終了のベルが鳴った。友達と別れ、スマートフォンを出して返信要なメッセージだけ処理して、後はスルーを決め込んだ。誰しもメッセージスルーはやっていて決して悪意は無い。そんな中、スルーを決めた中に半年ぶりだろうか、幼なじみの菜緒もあった。

「ちょい」「小峰君の事教えて」

 この短文二連チャンでスルー確定。 小峰はクラスメイトで、成績、運動神経も良く親が会社経営で潤って、爺さんが地方議員である。最近付き合っている女と別れて誰かに告白したらしいと、クラスの誰かが噂してたっけ。

 小峰は上っ面は良いので、大人と女の受けがいい。普通に話す分には爽やかで頭の回転も良く人気があるが、女がらみで数件揉めて、親父の力でもみ消したのを知っているから、付き合いで深入りしない事にしている。

 情報ソースは、一年の時の友達の姉の話だ。友達は中学から知っていて、可憐なところがある素敵なお姉さんだったことを覚えている。当時は小峰に食われて大変な目にあったそうだ。今は別の町で、大学生として平穏な生活を送っていると聞いている。

 多少不穏な噂は立っているはずなのに、地域の名士という厄介な属性のおかげで本人は自分のやっている不義理極まりない行動に、まったく無頓着であった。いいかげん最近の動向に呆れて、太鼓持ち以外は距離を置きだしていた。

 放課後、スマートフォンを確認したら小峰から珍しく直接メッセージが入っていた。「放課後うち来いよ」「宮坂達も来るってよ」 何の事かはグループメッセージから把握している。今日は塾もない日だそうだから、オンラインゲームで遊ぼうぜとの誘いだった。おれも今日は部活が休みだし(これでも、県大会までだけど武道系)乗るしかないなと思った。

「行くよ」 おれは、初めて小峰の家へ向かった。

 ― つづく ー

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登場人物紹介

筆者の怠慢で名前は無い。とりあえず〈おれ〉と呼称している。高校2年生、菜緒とは幼馴染。

幼馴染の菜緒とは幼稚園の時以来、高校で一緒になった。

家どうしの付き合いはあったから、話すこともたまにあったが、高校が一緒になってから登校時はなんとなく、菜緒と重ならないように気を使っていたことに最近気づいた。格闘技系の部活に入っている。

菜緒が小峰に告白されたようで、気にしていないよ……いや、ほんとだって。


こんにちは〈菜緒〉です。高校2年生です。

最近告白されまして、違うクラスの小峰君っていうちょっと爽やかイケメンなんですが、彼には色々と噂があって小峰君と同じクラスにいる、幼馴染の〈おれ〉君に問い合わせてみたら、メッセは返してこないし、なんか素気無くってちょっとムカついてます。

小峰と言います。高校2年生〈おれ〉とは同じクラスです。

祖父は地方議員で父は会社を営んでいます。

自分で言うのもなんですが、成績上位、イケメン、性格良しの全方位爽やか君です。

しかし、なぜか女絡みのトラブルが絶えず、祖父や父にもみ消してもらって、健やかな毎日を過ごしています。

今告白の返事待ちの子がいるんだけど、快諾だと思っていたのに断られそうなんどよね。〈おれ〉の奴の幼馴染らしいから探りを入れるついでに、憂さ晴らしでもしてやろう。

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