文字数 376文字

 段差で踵を引っ掛けて、おいらは不意に後ろへひっくり返りそうになる。 
「あわあわ、あわわ!」
 左右の手をばたつかせて、それがさらに誤解を読んだんだろうか。
「貴様、何しやがる?」
 まるでおいらが殴りかかったかのような言い草である。
 躓いたのは見ていただろうに、ほんと質の悪い言いがかりでしかない。
 おいらは、頭と左右の大きな耳を振った。
「な、何もしてませんよー」

 こんな都合良く物事を解釈する正義の味方がいたら、誰だって悪者にされてしまう。
 これではカルト信者かテロリスト、あるいは生来のクレーマーでしかない。

 男は、両手を四方八方に振り回したあと、ゆっくりと胸の前に構え、芝居がかった決めポーズをした。
「いいか、シュランバ。必ず貴様を倒す!」
 もう何を言っても通じなさそうだ。
 おいらはもう、ため息しか出ない。 
 いい歳した大人が、ほんと……頼むよう。
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