4 人間のすべき仕事

文字数 1,243文字

4 人間のすべき仕事
 ダナハーの『オートメーションとユートピア』は主流派経済学の発想を推し進めたものだ。労働が効用でないなら、それを機械に任せてしまえばよい。自らの価値観に基づいて幸福を追求することこそ人間的生き方だ。ダナハーの主張は古代ギリシアの「スコレー」の復活であるかに見えるが、実際には異なっている。前近代は共同体主義なので、すべての認知行動が規範によって評価される。スコレーの過ごし方もそれに従っていなければならない。一方、ダナハーの世界は近代を経てるので、生き方も個人に委ねられている。

 機械化自体は効用の増大として正当化できる。機械を導入すれば、生産の質・量ともに向上する。また、危険な作業を機械が代行することで、人間はそこから解放される。さらに、確かに機械は人間から既存の労働を奪うが、生産の拡充に伴い新たな仕事を生み出す。労働の機械化は社会にとって効用を増加させる。こうした議論はロックの労働に関する理論とも整合性が維持される。生産労働がすべてオートメーション化されても、研究開発や経営は人間が担当する場合も同様である。イノベーションやマネジメントという仕事が人間に残るからだ。

 言うまでもなく、AIが自律的に進歩するようになったとしたら、理論の再構築が不可欠である。その時は、人間ではなく、機械がそれを組み替える役割を担わざるを得なくなる。過去と現在に関する質量ともにそろったデータがあれば、野村総研の報告書が示す通り、いかなる社会が到来するのかはAIにも予想できる。しかし、いかなる社会を目指すのかはAIに考えられない。なぜなら、そこには価値観があるからだ。AIに追求すべき幸福はない。人間にはやるべき仕事がある。
〈了〉
参照文献
今道友信、『アリストテレス』、講談社学術文庫、2004年
賀川昭夫、『現代経済学 改訂版』、放送大学教育振興会、2009年
城塚登、『ヘーゲル』、講談社学術文庫、1997年
山岡龍一、『西洋政治理論の伝統』、放送大学教育振興会、2009年
John Danaher, “Automation and Utopia: Human Flourishing in a World without Work”, Harvard University Press, 2019

「日本の労働人口の 49%が人工知能やロボット等で代替可能に~ 601 種の職業ごとに、コンピューター技術による代替確率を試算 ~」、『野村総合研究所』、2015 年 12 月 2日配信
https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/news/newsrelease/cc/2015/151202_1.pdf
「AIを発明者と認めず 人間だけに特許権 英・最高裁が判断」、『TBS』、2023年12月22日00時37分配信
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/908394?display=1


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