はじまりの日

文字数 574文字

 新しい年のはじまりの朝。雪の降りしきる中、年老いた巫女は鎮守の森を歩いていた。

 禊のために、大池へ向かう。細い道の脇には、たくさんの椿が植わっている。その椿が、赤に白に、いっせいに花をつけていた。雪の積もる道の上にも、赤い花が落ちている。まるで敷物のように。


 この国は太陽の恵みを失っている。森も土地が痩せて、こんなに花をつけたことがない。見たこともない光景に、巫女はおののきながら花の上を歩いていた。

 大池のそばには、ひときわ大きな椿がある。その椿もまた、たくさんの赤い花をつけていた。雪の上にあふれるほど花首を落としていた。
 その根元に、巫女は小さな光を見た。

「司!」
 巫女を探す声がする。

「ここもこんなに咲いたのですね」
 白い衣服を着た若い巫女は、雪を埋め尽くす花びらの上を、おっかなびっくり歩いてくる。

「里の椿が、玉垣もいっせいに咲いています。皆何事かと大騒ぎで。こんなのはじめて見ました」
 司のそばに来て、興奮した様子で言いきってから、言葉を失って立ち尽くす。

 雪の中、椿の根元に、赤子が眠っている。光にくるまるようにして。一体どうして、こんなところに赤子がいるのか。司がそっと抱きあげると、赤子は火がついたように泣きだした。

 小さな拳を握りしめる赤子を見て、司は微笑んだ。
「元気な女の子だ」
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登場人物紹介

都波(とわ)

椿が咲き乱れた日に見つけられた。里の外に憧れを抱いていて、幼馴染みの颯矢太になついている。

颯矢太(はやた)

雪に強い体質の雪人(ゆきひと)。里と里を繋ぐトリとして数年前から旅をしている。

拓深(たくみ)

トリで颯矢太の先輩。顔立ちが良くもてるため軽薄だと思われがちだが、トリの役割には真面目。


満秀(みつほ)

里を神喰に滅ぼされて、雪の中をさまよい、都波のいる里にやってくる。守夜という犬を連れている。


鋼牙(こうが)

神々の残り香を壊していく盗賊集団・神喰(かみくら)の少年。都波たちに敵対心を持つ。


咲織(さおり)の姫

桜の里、珠纒(たまき)の神垣の巫女姫。里の皆に慕われている。

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