第10話 いかれたフィールドのまともな束の間

文字数 1,312文字

 3人は夜の町をぶらぶら歩いていた。
「今日は最後の夜じゃない。酒でも飲まない?」
 Kは言った。
「ゲームは続いてるんだぞ」と、Sは強く言った。
「気晴らしだったらいいよね」と、Mは言った。

 狭い通りに小さな小料理屋を見つけた。
「いらっしゃいませ」
 和服姿のきれいな女性が立っていた。
 3人はカウンターに座った。
「みなさんは冒険者なんですか?」
「そうですね…」
「どうですか、旅のほうは?」
「明日が最終日なんですよ。厳しいですね」
「大変ですね」
「あ、ここものすごい高かったりします?」
「どうでしょう」
 3人はメニューを見た。
「ビールが4XG、ウィスキーが5XG、サラダが6XG、魚の煮付けが8XG…」
「普通の店に初めて出会ったよ」
「サービス料とかとんでもない金額請求されたりしないですよね?」
「ないですよ、そういうのは」
「ああ、よかった」
「この世界で冒険してると人間不信になってくる」
「表通りは冒険者のみなさんが利用されますから、どうしても高くなるんですよ」
「高いとかいうよりもぼったくりですよ」
「それはいけませんよね」
 女性はフフフと笑った。

 3人はビールで乾杯した。
「ところでさ、明日どうする?」
「ゲーム的には不利な状況に追い込まれてる」
「カギはどうするんだよ。まったく手がかりがゼロじゃないか」
「こんな広いフィールドでこんな短時間で無理な話なんだよ」
 3人はため息をついた。
「カギですか?」
 3人の会話を聞いていた女性は言った。
「知ってるんですか?」
「話は聞いたことあるんですけど、そのカギについて知っている人ってごくわずかの人らしいんですよ」
「その人はどこにいらっしゃるんですか」
「それは分かりませんけど、年配の方だと思いますけど」
「はあ…」

 3人は店を出た。安く飲めたので、ベロンベロンに酔っ払っていた。
「どうすんの、今夜」
「宿探さないとね」
 3人はぐるぐると町を徘徊していると、
「あれ? ここさっき通らなかった?」
「そうだっけ? まっすぐ歩いているだけだよね」
「似たような街並みだから分かんなくなってくるよ」

 町の外れまで歩いて行くと、その先は黒い森になっていた。その向こうからほんわりとした熱く湿った空気が、3人の顔にあたった。
「なんか蒸し暑いよね」
「酔っ払ってるからだよ」
「この道まっすぐ行っちゃっていいの? どうみても森の中に入っちゃうんだけど」
「酔いさましの散歩でいいんじゃない」

 道なりに歩いていくと湯気が上がっているのが見えてきた。
 温泉だった。
「こんなところに温泉があるよ!」
 3人は温泉に入った。
「酔っ払ってるから、血液がリニアモーターカーだわ」
「気分悪いから出るわ」
 Kは温泉から出てから、なにげにXGカードを見た。
「おいすごい。HP全回復だよ!」
 Kは素っ裸のままガッツポーズをした。
「マジか」
 MとSは温泉から出て、それぞれのXGカードを見た。
「回復してる!」
「宿屋に泊まんなくていいじゃん、これ」
 3人は裸のまま肩を組んでぴょんぴょん跳ねた。
「コンビニとかハンバーガー屋でぼられなくて済むんじゃん」
「今までの出費がアホみたいだ」

 3人は朝まで温泉のまわりのベンチで横になってそのまま寝てしまった。
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