転がる毛糸玉

文字数 944文字

 ある年の冬の出来事だった。
 街はあちらこちらでイルミネーションが飾られ、クリスマスソングが流れていた。
 
 *
 
 通勤途中、歩道に毛糸玉が落ちていた。
 誰かの落とし物か。はたまた悪戯か。
 首を捻りながら、私は触れることなく通り過ぎていった。
 
 翌日。同じように毛糸玉が落ちていた。
 昨日は緑の毛糸だったが、今朝は赤の毛糸だった。
 不思議に思いつつも、私はまたしても触れることなく通り過ぎる。
 
 翌々日。三日連続で毛糸玉が落ちていたので、さすがに私は立ち止まった。
「誰の落とし物だ?」
 私は誰にともなくつぶやき、まじまじと落ちている緑色の毛糸玉を眺めた。
「それ、なんでしょうね。私も不思議に思っていました」
 エプロンをつけた中年女性が話しかけてきた。近所の人だろうか。
「はい。三日連続なので、謎で……」
「なんでしょうね。気味が悪い」
 彼女は肩を震わせた。
「ただの落とし物の割には、毎回同じ場所に置いてありますし。近くに、毛糸工場でもありますか?」
 私が聞くと、彼女はかぶりを振った。
「そんなものはないわね。ここら辺は住宅ばかりだし」
「そうですよね……。――仕事に遅れてしまうので、失礼します」
 謎は残ったままだが、私は会社に向かった。

 *

 四日目の朝は、毛糸玉は転がっていなかった。

 *

 **

 ***

 私はいつものように通勤していると、
「あの」
 いつぞやの中年女性が話しかけてきた。
「お久しぶりです」
 私は会釈して、さっさと去ろうとするが、腕を掴まれた。
「なんですか?」
「最近、ニュースみました?」
 彼女の問いに、私は「いいえ」と返した。
「実は、近所で事件が起きて」
 女性はちらりと後方の住宅を一瞥した。そこが事件現場なのだろう。
「それがなにか?」
 私は、遅刻するのではないかと気にかかっていた。
「落ち着いて聞いてほしいの。その事件っていうのは、30過ぎた男が、少女を拉致監禁し、殺してしまった」
「へえ」
 私は少し驚いたが、それと私に一体なんの関係があるのだと苛ついていた。
()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()らしいわ」
「えっ」
 私は愕然とした。
()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()らしいの」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み