第4話

文字数 1,116文字

「ばっ化け狸・・・!」
「きゃあっ!ぶたないで下さいー!」
タヌキが手、いやちいさな前脚で頭部を防護する
私の手には一升瓶が握られている。
事情をしらない人間がこの場をみたら、完全に私の方が野生動物を
虐待しようとしている悪人だ。

その時、ざぁっと一瞬の驟雨(しゅうう)が降り注いだ。
同時にまばゆい光がひらめき私は目を固く閉じた。
いったい 何が起こったの?

おそるおそる、目を開けると、化けダヌキの姿はなく、今しがたの雨がうそのように
夜のには月が白く輝いている。
荒れた境内の石畳が、月光に濡れ光っていた。

いや、月明かりだけではない、この光は私の背後からだ。

私はおそるおそる、振り向いた
拝殿の御扉(みとびら)がひらき、人が立っていた 人・・・じゃない.

月の光りを帯びる白銀の長い髪が夜の風にさらりとなびき
暗い光を宿した紅い瞳、古風な長い衣をまとう。
ぞくりとするほど美しい男性・・の姿をした 『上位の存在』だ。

いや、待てよだまされるな、もしやこれは・・・。
「化けダヌキっ?!

彼は無言で昂然と顎を反らし、私を睨みつける。
杉木立の枝がざわざわとゆれ、枝葉に溜まった雨水が
私に向かって降り注いだ。

「ひゃっ‼!」
「龍神様にむかって失礼ですよ!」
「えっ?」
さっきの狸が、拝殿の(きざはし)の下でちんまりとかしこまっていた。

龍神さまと呼ばれたその方は、濡れネズミになった私をすっと指さされた。

「え?え?わたし?」

しかし、その方が指し示したのは。私が胸に抱えていたエコバッグだった。
私はいっしゅん、私自身を所望されたのかと思い。自意識過剰を秒で恥じた。
龍神さまはゴミを見るような目で私を見下ろしておられる

エコバッグの中身は夕飯の「冷やし中華」に「からあげさん」
自分へのご褒美の「なめらかプリン」とエクレア。
そして見切り品で30%オフの「みたらし団子」コンビニで調達したものだ。
スマホを落そうが、酒瓶を振り回そうが
私の食い意地が無意識に死守させていたのだろう、持っていたことに全く気付かなかった。

タヌキが手をついて告白する
「はい そのお姉さんから、オイシそうな食べ物の匂いがしましたので。
病気の母に食べさせてやりたくてつい…」
タヌキの母?病気?
え?え?マジで?なにその時代劇みたいな理由。

「奪おうとしたのか」竜神さまが厳《おごそ》かに問われた。
「は、はい 慣れぬ化け姿で悪いこととは知りつつ、ちょこっとオドかそうとしまして」
「ちょこっと?!あれが?!」思わず抗議の声をあげる。

「でもこのお姉さん、思ったよりしぶとくて。
まさか龍神さまのご神域にはいり込むだなんて思いもしませんでした!
しかも一升瓶でぼくを()とうと・・・」
アーコワイコワイと小さなタヌキは、わざとらしくモフモフな体をふるわせる。

腹立つ。

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