8:夜の闇

文字数 682文字

 夜の闇と月の光。
 泣き声が微かに響く― 何処から?

――――――――――――†――――――――――――

 風がゆっくりと通り過ぎる。
 髪が微かに揺れた。
 ……ここ何処?
 昼間とは打って変った闇の空間。
 ママ?
 泣きそうになるのを必死で堪え、手を握り締める。

 暗い森に月明かりが煌々と耀く。
『手を繋いで離さないでね―』
 そう言われてたのに、離したのは私。
『わぁ。綺麗なちょうちょ~』
 それに気をとられて―
『ねえ、ママ?』
 気がついたら、ママはいなかった。
 闇は深く、何処からか梟の声がした。
「お化けが出そう……」
 森を見つめてポツリと呟く。
 必死にママを探して歩いた足は、もう動かない。
 森を出たと思った場所は荒野。
 また、森に入る気力も無い。

 視線は虚ろに空を見つめる。
 どうすればママに会えるの?
 行き着く想いはそれだけ。
 ガサッ
 不意に森の方から音がする。
 ビクリと身が強張る。
「どうしたの?」
 綺麗な声と共に出てきたのは―
 妖精?
 光の粒をまとった女の人。
「どうしたの?」
 もう一度ゆっくりとその人は言った。
「あ……マ……マとはぐれ…て」
 言い終わらないうちに涙が溢れてくる。
「フェ…ック…ママ。ママァ――」
 泣き叫ぶ私を優しい感触が包んだ。
「そう。ごめんなさい。私には貴女のママを探せないわ。
 でも、良ければ私と一緒に来ない?」
 温かい目が私を見つめる。
 私は泣くのをやめ、その人を見上げた。
「う…ん」
「いらっしゃい。永遠に一緒よ」
 私を抱き上げにっこりと微笑むその顔は天使のようで―
 同時に悪魔のようで……

 安らぎと不安の中、眠りの世界に引きずり込まれた。
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