第60話 記憶なくなーる

文字数 789文字

バックミラー越しのピエールは呆れたように首を小さく振った。

「またそんなくだらないもの作ったんですか?我々がチェックしてないから効果はアヤシイデス」

「俺の天才的な頭脳が信じられないのか?」

市太郎は機嫌良く笑っている。記憶がなくなる薬って何と何を混ぜたら作れるのか?凡人の私にはさっぱりわからない。

「だからさ、あの歯医者に記憶なくなーるふりかければどう?」

市太郎なりに爽真先生のことを気にしてくれていたようだ。市太郎は100%自分勝手ではない、95%自分勝手で5%は優しい。

バックミラー越しに見えるピエールの顔が厳しい。

「だから、効果は100%保証できません。再現確率70%グライデス」

長年連れ添った夫の小言をなかったことにする妻のように市太郎はピエールを流した。

「百合香にこの薬あげるから」

そういつものようにニッコリと笑った。

「ピエールと市太郎は何年の付き合いになるの?」

市太郎はまたニッコリと笑った、

「かれこれ十四年だよ、研究所に連れてこら」
「市太郎さん、守秘義務です!」

ピエールは厳しく市太郎を叱った。市太郎は先生に怒られた子供のように手で口を抑えた。

車内は気まずい雰囲気が漂う、彼らはこれ以上話したらいけないという重圧がかかっているし、私と田中さんは話のスケールが違いすぎて口を開けない。


市太郎は今二十歳だから、六歳の頃。その頃に研究所に連れて行かれた……。

二十歳になるで研究漬けで今年少しの休暇を貰えて日本に戻ってきた。

市太郎の抱えてる物が重すぎる。きっと日本に来るまで寂しいし、不安だし、孤独だしどれだけの苦しみを味わってきたのだろう。

車はいつの間にか見慣れたマンションが見える通りまで走ってきていた。

「百合香、久しぶりにお母さんの美味しいご飯食べられるかな?」

心底嬉しそうな市太郎をみて笑顔でうなずいた。



お母さんは市太郎が好きだから何かしらのご飯は用意してくれるだろ。





















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