1 根性なし!

文字数 1,016文字

ウォーレン・スパーン、あるいは衰えの中の成長
Saven Satow
Sep.03, 2023

「ウォーレン・スパーンが野球殿堂入りすることは絶対にないだろう。なぜなら彼はずっとピッチャーであり続けるからだ(Warren Spahn will never get into the Hall of Fame. He won't stop pitching)」。
スタン・ミュージアル

1 根性なし!
 1942年のオープン戦、ボストン・ブレーブスのケーシー・ステンゲル監督はルーキー・ピッチャーにブルックリン・ドジャースの遊撃手ピー・ウィー・リースへのビーンボールを命じます。プロ野球においてベンチが報復として相手打者にぶつけることをバッテリーに指示することがあります。特に、アメリカではやられたらやり返すことが不文律になっているほどです。

 この当主は、前年、マイナーリーグで19勝を挙げ、ブレーブスのキャンプに参加、今シーズンのメジャーデビューが有力視されています。オープン戦の当番はそのテストの意味があり、彼は首脳陣に好印象を与える必要があります。このケーシー・ステンゲル(Casey Stengel),は1966年に野球殿堂入りする大監督です。しかも、ピー・ウィー・リースの(Pee Wee Reese)は俊足好守の名選手で、彼の背番号1はドジャースの永久欠番、1984年に野球殿堂入りも果たしています。監督にすれば、そんな大物にぶつける度胸がこの若者にあるかを見たいという意図もあったでしょう。

 ところが、この新人は指示を拒否します。「根性なし(Gutless)」とステンゲルは激怒し、開幕後に4試合投げさせただけで、彼をマイナーに降格させます。彼がそこで17勝を挙げる活躍をしても、監督はメジャーに呼ぼうとしません。おまけに、マイナーでシーズンを終えた直後、徴兵され、彼はヨーロッパ戦線に送られてしまうのです。

 この新人投手の名前はウォーレン・スパーンと言います。MLB史上最も勝ち星を挙げた左投手です。ステンゲルは彼に対する報復を後悔することになるのです。「ステンゲルが天才になる前となった後の両方で働いたことのある男はおそらく私だけです(I'm probably the only guy who worked for Stengel before and after he was a genius)」(ウォーレン・スパーン)。

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