いち！　ＫＥＮＴはケンケンでお兄ちゃんの友だち①

　最近SNSで話題のネタにね、「ユートピア郷団」っていうのがあるの。そのオリジンで、一瞬バズって消えた動画配信者が「KENT」っていうんだけれど。

　その「KENT」がウチのお兄ちゃんの友だち、中学のクラスメートの「山崎健斗」通称「ケンケン」って子だったってことを、ウチは最近知ったんだ。でさ、それだけでも驚きなのに、お兄ちゃんがそのバズり動画の裏方で、ケンケン君に頼まれて台本を書いて、撮影を手伝ったんだって。
　うそぉ！　超びっくり！　だってレジェンドだもん「KENT」の「ユートピア郷団」動画は。あれから全てが始まったんだってまとめサイトにもあるくらいで。

　そっち方面に明るくない人もいるだろうから、説明が必要だね。だから簡単に話すね。「KENT」はほんの一時期だけ活動していた動画配信者なんだ。もともとはゲームの実況動画や有名人の追悼動画を作って公開していたの。でも全然注目されなかった。こう言っちゃなんだけれど、どれも「いかにもシロウトが作りました」って感じのつまらない動画でね。
　それなのに突然一本だけ、最後の最後に本当に一本だけ、有名な動画を作って「KENT」はネットから姿を消した。それが「ユートピア郷団動画」。お兄ちゃんが台本を書いたやつ。

　お兄ちゃんには悪いんだけれど、本音を言うとその動画も大して面白くないの。シロウトの匂いがプンプンするのは相変わらずだし。オチがあるようで無いし。「KENT」の演技もクッソ下手だし。　昔、「学生が森へ魔女伝説の取材映画を撮りに行く」っていうあらすじのフェイクドキュメンタリー映画があったんだけれど、お兄ちゃん曰く「それをお手本にした」んだって。全編を「KENT」が回すカメラからの視点で撮っているのも、映画と同じ。あの映画はひどいけれど（ウチは好きだよ。心霊スポット潜入動画みたいでさ）、「KENT」の動画はもっと圧倒的にやばいよ。見ているこっちが恥ずかしくなるレベルよ。中学生二人の手作り動画だから当たり前なんだけれど。

　ま、とにかく、まずはその動画のあらすじを説明するね。一応ストーリー仕立てだからさ。大昔のアドベンチャーゲームみたいな内容で草が生えるよ。

　

配信者KENTの親戚が突然消息を絶った。後日KENTの家にその親戚から自宅の鍵が送られてきた。もう家には戻らないから片付けて欲しいという。そこでKENTはその親戚の家に行ってみた。暗い家の中をおそるおそる探索するKENTは一台のパソコンを見つける。パソコンを起動してウェブブラウザを確認したところ、そこには「ユートピア郷団」という団体のサイトを閲覧した履歴が残っていた。それは文明を離れ、自然と調和した共同生活をしている団体のようだ。それを見たKENTは呟く。「『ユートピア郷団』……俺の親戚はそこにいるのだろうか？」