第3話
文字数 3,957文字
なんてムカつく姉だろう。
僕はプンスカしながら、大股で歩道を歩いていた。チェックシャツの上に羽織った黒いコートの隙間から、肌を切るような冷たい空気が入り込み、寒い。すぐ近くに大きな私立大学のあるこの街は、学生が多いこともあり人がわちゃわちゃ店がわちゃわちゃ、日もすっかり沈んだというのに、とにかく賑わっている。
「ナイスミュージック?ナイスドリンク?」
大柄な黒人が流暢な英語でビラを僕に押し付けてくる。毎日ここにいるいかにも怪しいキャッチだ。すぐ近くに自宅があることもあり、彼には毎日のように声をかけられるのだが、店に行ったことはない。このクソ寒いというのに、黒いTシャツに天使の刺繍が入ったいかついスカジャンを羽織っているだけ。こいつぁいかれとんのか。毎日のようにしょうもない勧誘をしやがって。行くわけないだろボケナスが。
「ノー!セーン!キュー!」
普段であれば、軽く会釈して通り過ぎる。が、むしゃくしゃしていた僕は、黒人の方を向いて、大きな声でそう返事し、ビラを押し付けるその手を払いのけた。
「いたっ、何するんですか!?」
すると流暢な日本語。低い声。
「え?」と思わず声を漏らす。
一瞬、どこから声が発せられたのかわからなかった。
「そんな払いのけなくたっていいでしょうが!いったいなあもう!」
目の前の黒人がペラペラと日本語を話し出したのだ。その口から発せられる声と、その容姿のギャップから、僕は混乱し、驚き、思わず足を止めた。
「え、キミ、日本語話せたの?」
毎日ここを通るが、日本語を話しているところは初めて見た。
「へえ?当たり前でしょ?日本に何年住んでると思ってるんです?」
黒人は何を言ってるのだと呆れた様子だ。こちらの気持ちも考えてほしい。
「な、なかなか日本語上手いけど、ちなみに生まれは?」
「東京は八王子ですね」
「じゃあ、英語は?話せるの?」
「ははっ、日本から出たことないんですよ?ほとんど話せるわけないじゃないですか」
そんなもん知るか。なんてことだ。実家のおばあちゃんよりもずっと流暢な日本語で、目の前の黒人がペラペラと話しているではないか。しかも英語は話せないときたもんだ。ああ恐ろしい、やはり人を見た目で判断してはいけない。
「英語で声かけたほうが雰囲気出るでしょう?」
黒人は得意げにニッと口角を上げた。確かに雰囲気は出るが、怖い。
「それ、逆効果なんじゃない……?キミみたいな大柄な人に英語で話しかけられちゃ誰だって怖いよ?」
「え、そうですかね?」
呆気にとられたように黒人は意外そうな表情を浮かべる。
「何の店なわけ?」
「カフェです。でも美味しいお酒もたくさんあるんですよ.優しいおじさんがやってる店なんで、ちょっと行きません?」
優しいおじさんとこの黒人は一体どういう関係なのだ……?店の雰囲気にこの黒人は本当にあっているのだろうか。
「ううむ、今日はちょっとなあ」
怪しさが完全に拭えたわけではない。それにおじさんがやっている店ときたもんだ。おそらく定年を超えた老人が冥土の土産にやっているような趣味の延長線上の店だろう。老人のお遊びに付き合ってる暇はない。すまないが……。
「ごめんね」と言って、僕は彼から顔を背け、再び歩き出そうとする。が、黒人は諦めなかった。
「決して人気がないわけではないんですよ?でもマスターは男性のお客様にも来て欲しいって。一回だけ来てもらえませんか?もう若い女性ばっかり来ちゃって、客層が偏って仕方ないんです」
僕の去り際、黒人は両手をすり合わせて、頭を下げた。
女性ばっかり来ちゃって……?
その言葉に、天芸寺センサーがビンビンに反応した。
「キミ、名前は?」
踵を返し、僕は彼に向き直す。
「へ?僕ですか?クピドです」
クピドはその大きな体を折り曲げて、へこへこと頭を下げる。案外、いかにも外国人といった名前だ。いや、間違っていないのか。ええい、ややこしい。
「うむ。クピドくん。僕も暇ではないんだ。わかるね?」
僕は爪先立ちで背伸びをして、僕よりも背の高いクピドの肩に手を回し、下から彼の顔を覗き込んだ。
「はあ」
「仕事だって、それなりに忙しいし、女性からの誘いがないわけでもない。わかるね?」
「ええ、それで?」
「まさか決して、若い女の子が沢山いるから店に赴こうなんてわけではない。が、まあキミという素晴らしい友人に出会えた。これも何かの縁だ。わかるね?」
「友人……?ええ、ありがとうございます」
「繰り返しになるが、若い女の子が沢山いるから店に行こうというわけではない。が、今日は少々むしゃくしゃしていてね。酒をガーッとかきこんで気分良くなりたい気もする。わかるね?」
「あの、つまりどういう……?」
「ふむ、そうだね」
僕はクピドから離れ、芝居掛かったように夜空を見上げる。
「まあ、ちょっとだけ、行こっかな」
唇を尖らせて、いかにも自然な、誠に等身大な装いで僕は言った。完璧だ。
「本当ですか!ありがとうございます!黒野巣さんも喜びます!」
クピドは、子供のようにはしゃいで喜びを表現する。
「くろのす?だれ?」
「ああマスターですよ。さあさあ、案内しますよ」
そう言ってクピドは歩き始める。
「ふうん、ここから遠いのかね?」
「いいえ、すぐそこです」
クピドはフフンと笑みを浮かべる。
寒い中、クピドとくだらない世間話をしながら、駅とは反対方向に数分歩いていく。駅から離れるにつれ、店の数、そして人の数が減っていった。案外クピドは話がうまく、移動中も楽しませられた。
「さあ、着きましたよ」
それは自宅からそう遠くない、閑静な住宅街の一角。公園に挟まれる形で、二階建て、木造の黒い建物が建っていた。入り口に着いた小さな曇りガラスと、その両脇の小窓から暖かな光が漏れ出している。確かに、お洒落だ。しかし、こんなところにこんな建物はあっただろうか?
「どういうわけか、男性のお客様はなかなか当店を見つけられないみたいなんですよねえ。どいうわけか」
僕の心の疑問を見透かしたかのようなクピドの説明に僕は、「ふーん」と頷く。まあそんなことはどうでもいい。可愛い女の子はいるかしらん。るんるん。
入り口ドアに向かって進むと、ドアの脇の黒い立て看板に白いペンキで文字が書かれているの気づいた。思わずじっと眺める。
『ブラックネスト』
オシャレなフォントで、黒い立て看板にはそうあった。
「店の名前です。オーナーが黒野巣という名前なので、そこから黒の巣、ブラックネストと。いい名前でしょ?」
去り際のクピドの説明に、「悪くないね」と頷いてみせた。
「では、楽しんで」
背中越しにこちらを振り返りながらそう言って、クピドは闇に紛れて行った。
「ではでは、お邪魔するとしようか」
クピドを見送り、僕はぐっとドアを押して開ける。
中に入り、僕は首をぐるっと回して店内を見回す。まず目に飛び込んで来たのは、うじゃうじゃいる若い女性。ウヒョー、よりどりみどりとはこのことである。なんとまあ素晴らしい店だろうか。
「いらっしゃい。好きな席にどうぞ」
カウンターの中にいた、顎髭を生やし、黒縁眼鏡をかけた男性が僕に言った。黒いエプロンがよくにあっている。いかにもカフェのマスターといった感じの渋いおじさんだ。この男がマスターの黒野巣という男だろう。
僕はどこに座ろうかと、改めて店内を見回す。
すると、一つ、変わった点があることに気づいた。
全体的に黒、木の質感で統一された店内はこじんまりとしているが、広いカウンター席といくつかのテーブル席がある。そしてカウンターの内部に、いかにもカフェのマスター然としている渋い男性がいる。いかにも、若い女性に人気が出そうなカフェである。
ただ、とにかく時計が多いのだ。
隅に置かれた置き時計、壁には掛け時計、棚の上のデジタル時計、カウンター席に置かれた砂時計。黒い店内にうまく溶け込んではいるが、よくよく見てみると、とても数えきれないほどの時計が店内にはあった。
マスターの趣味だろうか。しかし、時計もこれだけ揃うと洒落ているように見えるものだ。
僕はとりあえず、店の一番奥、カウンター席の端っこに座った。
「ふう」
小さく息をついて、椅子の背もたれに手を置き、背後のテーブル席を見渡す。あっちにも、こっちにも若い女性たち。冬だからみんな厚着だが、僕くらいになると厚着の上からでもそのボディラインが透けて見える。それにどうやら男は僕だけらしい。ぐふふ。
「お水です。ご注文が決まりましたら、お呼びください」
背後からの声に振り返る。マスターが居て、目の前に水を置いた。
「ありがとうございます」
僕はいつも通り、小さくニッと笑って、低く渋い声で礼を言う。いつも通りにね。それから立てかけてあったメニューを手に取り、広げた。なるほど、確かにカフェだが、なかなかいろいろなお酒も揃っているみたいだぞ。これは素晴らしい店を見つけたものだ。
「どうも、こんにちは」
突然、右横から声を浴びた。
「はい?」
メニューから顔を上げると、右隣の席に、色白の若い優男が座って居た。チッ、男か。前髪が目にかかるほど長く、右耳にだけ着けられた金のピアスが鼻につく。
「なんですか?」
るんるん気分を邪魔された僕ちんは訝しげに双眸を細めた。なんだぁこいつぁ。
「あなた、恋がうまく言ってないでしょう?」
なっ!?なんて失礼な男だ。初対面だぞ!なんと言い返してやろうか、と思っていると、男が言葉を続けた。
「私、縁結びの神なんです。あなたの恋を成就させて見せますよ。お任せください」
僕はプンスカしながら、大股で歩道を歩いていた。チェックシャツの上に羽織った黒いコートの隙間から、肌を切るような冷たい空気が入り込み、寒い。すぐ近くに大きな私立大学のあるこの街は、学生が多いこともあり人がわちゃわちゃ店がわちゃわちゃ、日もすっかり沈んだというのに、とにかく賑わっている。
「ナイスミュージック?ナイスドリンク?」
大柄な黒人が流暢な英語でビラを僕に押し付けてくる。毎日ここにいるいかにも怪しいキャッチだ。すぐ近くに自宅があることもあり、彼には毎日のように声をかけられるのだが、店に行ったことはない。このクソ寒いというのに、黒いTシャツに天使の刺繍が入ったいかついスカジャンを羽織っているだけ。こいつぁいかれとんのか。毎日のようにしょうもない勧誘をしやがって。行くわけないだろボケナスが。
「ノー!セーン!キュー!」
普段であれば、軽く会釈して通り過ぎる。が、むしゃくしゃしていた僕は、黒人の方を向いて、大きな声でそう返事し、ビラを押し付けるその手を払いのけた。
「いたっ、何するんですか!?」
すると流暢な日本語。低い声。
「え?」と思わず声を漏らす。
一瞬、どこから声が発せられたのかわからなかった。
「そんな払いのけなくたっていいでしょうが!いったいなあもう!」
目の前の黒人がペラペラと日本語を話し出したのだ。その口から発せられる声と、その容姿のギャップから、僕は混乱し、驚き、思わず足を止めた。
「え、キミ、日本語話せたの?」
毎日ここを通るが、日本語を話しているところは初めて見た。
「へえ?当たり前でしょ?日本に何年住んでると思ってるんです?」
黒人は何を言ってるのだと呆れた様子だ。こちらの気持ちも考えてほしい。
「な、なかなか日本語上手いけど、ちなみに生まれは?」
「東京は八王子ですね」
「じゃあ、英語は?話せるの?」
「ははっ、日本から出たことないんですよ?ほとんど話せるわけないじゃないですか」
そんなもん知るか。なんてことだ。実家のおばあちゃんよりもずっと流暢な日本語で、目の前の黒人がペラペラと話しているではないか。しかも英語は話せないときたもんだ。ああ恐ろしい、やはり人を見た目で判断してはいけない。
「英語で声かけたほうが雰囲気出るでしょう?」
黒人は得意げにニッと口角を上げた。確かに雰囲気は出るが、怖い。
「それ、逆効果なんじゃない……?キミみたいな大柄な人に英語で話しかけられちゃ誰だって怖いよ?」
「え、そうですかね?」
呆気にとられたように黒人は意外そうな表情を浮かべる。
「何の店なわけ?」
「カフェです。でも美味しいお酒もたくさんあるんですよ.優しいおじさんがやってる店なんで、ちょっと行きません?」
優しいおじさんとこの黒人は一体どういう関係なのだ……?店の雰囲気にこの黒人は本当にあっているのだろうか。
「ううむ、今日はちょっとなあ」
怪しさが完全に拭えたわけではない。それにおじさんがやっている店ときたもんだ。おそらく定年を超えた老人が冥土の土産にやっているような趣味の延長線上の店だろう。老人のお遊びに付き合ってる暇はない。すまないが……。
「ごめんね」と言って、僕は彼から顔を背け、再び歩き出そうとする。が、黒人は諦めなかった。
「決して人気がないわけではないんですよ?でもマスターは男性のお客様にも来て欲しいって。一回だけ来てもらえませんか?もう若い女性ばっかり来ちゃって、客層が偏って仕方ないんです」
僕の去り際、黒人は両手をすり合わせて、頭を下げた。
女性ばっかり来ちゃって……?
その言葉に、天芸寺センサーがビンビンに反応した。
「キミ、名前は?」
踵を返し、僕は彼に向き直す。
「へ?僕ですか?クピドです」
クピドはその大きな体を折り曲げて、へこへこと頭を下げる。案外、いかにも外国人といった名前だ。いや、間違っていないのか。ええい、ややこしい。
「うむ。クピドくん。僕も暇ではないんだ。わかるね?」
僕は爪先立ちで背伸びをして、僕よりも背の高いクピドの肩に手を回し、下から彼の顔を覗き込んだ。
「はあ」
「仕事だって、それなりに忙しいし、女性からの誘いがないわけでもない。わかるね?」
「ええ、それで?」
「まさか決して、若い女の子が沢山いるから店に赴こうなんてわけではない。が、まあキミという素晴らしい友人に出会えた。これも何かの縁だ。わかるね?」
「友人……?ええ、ありがとうございます」
「繰り返しになるが、若い女の子が沢山いるから店に行こうというわけではない。が、今日は少々むしゃくしゃしていてね。酒をガーッとかきこんで気分良くなりたい気もする。わかるね?」
「あの、つまりどういう……?」
「ふむ、そうだね」
僕はクピドから離れ、芝居掛かったように夜空を見上げる。
「まあ、ちょっとだけ、行こっかな」
唇を尖らせて、いかにも自然な、誠に等身大な装いで僕は言った。完璧だ。
「本当ですか!ありがとうございます!黒野巣さんも喜びます!」
クピドは、子供のようにはしゃいで喜びを表現する。
「くろのす?だれ?」
「ああマスターですよ。さあさあ、案内しますよ」
そう言ってクピドは歩き始める。
「ふうん、ここから遠いのかね?」
「いいえ、すぐそこです」
クピドはフフンと笑みを浮かべる。
寒い中、クピドとくだらない世間話をしながら、駅とは反対方向に数分歩いていく。駅から離れるにつれ、店の数、そして人の数が減っていった。案外クピドは話がうまく、移動中も楽しませられた。
「さあ、着きましたよ」
それは自宅からそう遠くない、閑静な住宅街の一角。公園に挟まれる形で、二階建て、木造の黒い建物が建っていた。入り口に着いた小さな曇りガラスと、その両脇の小窓から暖かな光が漏れ出している。確かに、お洒落だ。しかし、こんなところにこんな建物はあっただろうか?
「どういうわけか、男性のお客様はなかなか当店を見つけられないみたいなんですよねえ。どいうわけか」
僕の心の疑問を見透かしたかのようなクピドの説明に僕は、「ふーん」と頷く。まあそんなことはどうでもいい。可愛い女の子はいるかしらん。るんるん。
入り口ドアに向かって進むと、ドアの脇の黒い立て看板に白いペンキで文字が書かれているの気づいた。思わずじっと眺める。
『ブラックネスト』
オシャレなフォントで、黒い立て看板にはそうあった。
「店の名前です。オーナーが黒野巣という名前なので、そこから黒の巣、ブラックネストと。いい名前でしょ?」
去り際のクピドの説明に、「悪くないね」と頷いてみせた。
「では、楽しんで」
背中越しにこちらを振り返りながらそう言って、クピドは闇に紛れて行った。
「ではでは、お邪魔するとしようか」
クピドを見送り、僕はぐっとドアを押して開ける。
中に入り、僕は首をぐるっと回して店内を見回す。まず目に飛び込んで来たのは、うじゃうじゃいる若い女性。ウヒョー、よりどりみどりとはこのことである。なんとまあ素晴らしい店だろうか。
「いらっしゃい。好きな席にどうぞ」
カウンターの中にいた、顎髭を生やし、黒縁眼鏡をかけた男性が僕に言った。黒いエプロンがよくにあっている。いかにもカフェのマスターといった感じの渋いおじさんだ。この男がマスターの黒野巣という男だろう。
僕はどこに座ろうかと、改めて店内を見回す。
すると、一つ、変わった点があることに気づいた。
全体的に黒、木の質感で統一された店内はこじんまりとしているが、広いカウンター席といくつかのテーブル席がある。そしてカウンターの内部に、いかにもカフェのマスター然としている渋い男性がいる。いかにも、若い女性に人気が出そうなカフェである。
ただ、とにかく時計が多いのだ。
隅に置かれた置き時計、壁には掛け時計、棚の上のデジタル時計、カウンター席に置かれた砂時計。黒い店内にうまく溶け込んではいるが、よくよく見てみると、とても数えきれないほどの時計が店内にはあった。
マスターの趣味だろうか。しかし、時計もこれだけ揃うと洒落ているように見えるものだ。
僕はとりあえず、店の一番奥、カウンター席の端っこに座った。
「ふう」
小さく息をついて、椅子の背もたれに手を置き、背後のテーブル席を見渡す。あっちにも、こっちにも若い女性たち。冬だからみんな厚着だが、僕くらいになると厚着の上からでもそのボディラインが透けて見える。それにどうやら男は僕だけらしい。ぐふふ。
「お水です。ご注文が決まりましたら、お呼びください」
背後からの声に振り返る。マスターが居て、目の前に水を置いた。
「ありがとうございます」
僕はいつも通り、小さくニッと笑って、低く渋い声で礼を言う。いつも通りにね。それから立てかけてあったメニューを手に取り、広げた。なるほど、確かにカフェだが、なかなかいろいろなお酒も揃っているみたいだぞ。これは素晴らしい店を見つけたものだ。
「どうも、こんにちは」
突然、右横から声を浴びた。
「はい?」
メニューから顔を上げると、右隣の席に、色白の若い優男が座って居た。チッ、男か。前髪が目にかかるほど長く、右耳にだけ着けられた金のピアスが鼻につく。
「なんですか?」
るんるん気分を邪魔された僕ちんは訝しげに双眸を細めた。なんだぁこいつぁ。
「あなた、恋がうまく言ってないでしょう?」
なっ!?なんて失礼な男だ。初対面だぞ!なんと言い返してやろうか、と思っていると、男が言葉を続けた。
「私、縁結びの神なんです。あなたの恋を成就させて見せますよ。お任せください」