05 つじつま合わせに生まれた勇者

文字数 1,053文字

「わたしがまだ小さな子どもだったとき、一匹のドラゴン族が、わたしの住んでいる村を襲ってきたのだ」

「……」

 勇者レーテシアはとくとくと身の上話を始めた。

 ドラグレシアは神妙な面持ちでそれを聴いている。

「山へ花を摘みにいっていたわたしが戻ると、村の者たちはひとり残らず殺されていた。父も、母も、弟も……」

 うう、重い……

 それでひとりぼっちになっちゃったってわけか……

「しかし、さらなる『地獄』はそのあとだ」

 な、いったい何が……?

「周囲はわたしを悲劇の少女とまつりあげ、王は城へ招き、師を与え、あれよあれよという間に、わたしは正義の戦士として悪を駆る存在に作り変えられた(・・・・・・・)

「わたしは人間たちの『人形』として、来る日も来る日も戦いに明け暮れた。わたしは家族を殺したドラゴン族が憎い、それは確かだ。だがドラグレシアよ、わたしはからっぽ(・・・・)なのだ。糸で操られなければ動くことさえできない人形、それもとびきりの『道化人形』なのだ。もう、何のために戦っていたのかすら、わからなくなってきた」

 人形、人形か……

 レーテシアの言いたいこと、なんだかわかる気がする。

 彼女と比べるのは失礼だけど、俺も受験だとか就職だとか、周囲の期待にこたえようと必死になっていた。

 そう、それこそ、『人形』のように。

「頼む、ドラグレシア、わたしを殺してくれ。もう疲れたのだ、人形として生きることにな。こんなに苦しいのなら、いっそ、死んだほうがずっとマシだ」

「レーテシア……」

 胸の内を吐き出したレーテシアに、ドラグレシアは悲痛なまなざしを送っている。

 死にたいと思うほど苦しかったのか……

 俺なんかで代われるものなら、代わってやりたい。

 いや、待て。

 こんなときこそ、こんなに苦しんでいる人によりそうものこそ、音楽なんじゃないのか?

 それが音楽というものなんじゃないのか?

「ドラグレシアさま」

「カイトよ、どうした?」

「彼女に聴かせたい音楽があるのです。どうか、お許しをいただけないでしょうか?」

「なるほど、苦しんでいる者によりそうのもまた音楽か。いいだろう、やってみよ」

「はっ」

 ドラグレシアが指を振ると、鉄格子の扉がギシッと開いた。

「……」

「レーテシアさん、あなたに聴いていただきたいものがあるのです」

「末期の水の代わりか? ドラグレシアにつかえる少年よ」

「音楽というものなのです。どうかこれを聴いてください」

 ポカンとするレーテシアを意に介さず、俺はスポティファイの画面でamazarashiの「つじつま合わせに生まれた僕等」をタップした。
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