第2話 竜帝ドラグレシアはカイトを居城へと案内する

文字数 1,309文字

「少年よ、こちらへ来い。そしてもっと聴かせるのだ、その音をな」

 LiSAの「紅蓮華」が大音量でかかっているスマホを指差し、ドラグレシアはそれをくいッと上に曲げた。

「おわっ!?」

 何かの力が働いて、俺の体は宙に浮いた。

「さあ、来るがよい」

 一気に引き寄せられ、豊満な胸もとに俺は顔をうずめた。

「ぐぐ、苦しい……」

「おう、すまなかった。しかし少年よ、これはいったいなんだ? この不思議な音は? なにやら言葉があるようだが、これは何を言っているのだ?」

 ドラグレシアは俺の頭を撫でながらたずねてくる。

 うむ、悪くない。

 だが、鬼滅の刃というアニメの主題歌で――

 と言っても通じなさそうだな。

 しかし待てよ、ここの住人はひょっとして、そもそも「歌」というものを知らないのか?

 うーん、どう説明するか……

「えーと、これは音楽というもので、言葉があるものは歌と呼ばれるんです」

「ほう、なるほど。この激しい音は音楽というものなのか。そしてこの言葉は歌というものだと。ふむ。しかしいったい、この歌なるもの、言葉自体はなんとなくわかるが、どういう意味のことを申しておるのだ?」

「え、えーと、そうですね……たとえどんな困難が立ちふさがろうとも、それと向き合い、立ち向かっていくことが大切なんだよ、という感じですかね……」

 これはかなり苦しいか?

 大丈夫かな……

「なんと、このおなごの言葉はそういうことを申しておるのか。ふむ、その心がまえ、よくわかる。かくいうわれも、先の大戦のおり、にっくき敵どもから幾度となく窮地に追い込まれてきた。しかしそんなときは、決して負けぬと心に誓い、たび重なる死線を乗り越えてきたものだ。わかる、わかるぞ。このおなご、われの気持ちをよく理解しておる」

 なんかよくわからんけど、LiSAの歌に感情移入しちゃった感じ?

 マジか。
 
 言ってみるもんだな……

「このおなごの名はなんというのだ?」

「はあ、LiSAというアーティストです。あ、アーティストというのは、歌を歌う人のことですね」

「ほう、リサと申したか。ふむ、われはこのリサなるおなごの歌が気に入った。少年よ、リサの歌はほかにもあるのか?」

 お、どうやら興味津々のようだぞ。

 よし……

「このスマホという道具の中には、たくさんの音楽や歌が入っているんです。なんでしたら、もっとお聞かせいたしますよ?」

「なんと、その中にリサの歌がもっと入っているとな? ふふっ、なんだか熱くなってきたぞ。リサの歌を聴いていると、血がわき肉が踊るようだわ。長らく眠っていたわが渇望が満たされていくかのようだ。よし、少年よ、われとともにわが居城へ来い。そこでさらなる音楽を聴かせるのだ。はあっ!」

「え、え……?」

 ドラグレシアの体が赤く光って俺を包み込んだかと思うと……

「ふはは、ひさかたぶりに体が熱いわ!」

 これは、赤いドラゴン?

 その背中に乗っている……

「いざ、火の国フレイガルドへ!」

「うわあっ!」

 赤いドラゴンの姿となったドラグレシアは、その大きな翼を広げ、瞬く間に空へと跳躍した。

「わはは、いい気持ちだ!」

 ドラグレシアは笑いながら、俺をはるか空の彼方へと連れ去っていった――
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み