#02 ロープと老人
文字数 2,737文字
(彼女だけは……と思っていたが、見られてしまったからには消すしかなかった。いつの間にか、人間くさくなっちまったなぁ……)
真夜中。
若い二人の男女がランプを片手に、森の中へと入っていく。
男はこの村の木製のワインボトル・ラックを作っている職人、ブリュノ。
女は兄弟の多い、貧しい家の村一の美女、ジゼル。
二人はあの“魔物たちの館”を目指し、デボルド=ベルモール公爵家の領地に足を踏み入れていた。
ブリュノはそう言うと、ジゼルに
ランプの光に照らされ、それは赤々とまばゆく輝く────。
深い深い森の中は、高い木の枝や葉がおい重なり、月の光さえもさえぎられていた。
二人はランプの光だけを頼りに、草むらを長い木の枝でガムシャラにかき分け、木の根が盛り上がっていたり、窪みのある歩きづらい道を前へ前へと進んでいく。
二人はその場に立ち止まって、ランプをぐるりと照らしたそのときだった。
すぐ近くで、二人に助けを求める声が聞こえたのは。
こんな真夜中に、自分たち以外の人間がいるはずがない。
風が吹いて茂みがこすれ合った音なのか、魔物や吸血鬼といったものが本当に存在するのか……。
二人はゴクンと息をのんで、顔を見交わした。
ブリュノのランプを持つ手がガタガタと震える。
歩き出した二人の前に、再び声の主が────。
二人は息を凝らして、恐る恐るランプを照らしてみる。
すると、木の茂みの中から顔がぬっと浮かび上がった。
ジゼルは血相を変えて叫び、ブリュノの後ろに隠れた。
ブリュノは、じっとランプを照らし続ける。
と、老人の声がだんだんと低くなり、ブリュノとジゼルの顔をそれぞれうかがう。
老人はそう言うと、ぎょろりとした目で二人を睨みつけた。
そして、この老人からもデボルド=ベルモール公爵にまつわる話を聞かされることとなる。