#01 ワイアット司祭
文字数 2,702文字
小さな丘。
美しい小川。
ぶどう畑。
広大な森。
小鳥のさえずり。
この美しく、自然豊かな小さな村には古くから伝えられてきた話がある。
それは、この森の奥深くにある大きな館、デボルド=ベルモール公爵にまつわる話である。
この館には、かつてオーギュスト・リュシアン・デボルド=ベルモールという公爵が住んでいた。
彼は何不自由ない暮らしを送っており、地位、財産、名誉を誰よりも愛し、そして何よりも“
村人に気さくな紳士を演じては、裏では邪魔になる者を消す、大金を手に入れるためには手段をえらばない
ある日、デボルド=ベルモール公爵の噂を
「我らには、おまえの欲しいものがある」と。
“永遠の命”と引き換えに吸血鬼化した公爵は、村人たちを次々と
それを見かねた聖職者たちが、彼と彼を取り巻く魔物たちをこの館のどこかに封じ込めたのだという。
それ以来、この森に近づく者はいない。
────大聖堂。
ワイアット司祭が、ある日記に目を通していたときだった。
ひとりの若者が現れたのは。
ワイアット司祭はそう言うと、胸にある十字架を手にする。
人間の
低く不気味な笑い声に、ワイアット司祭はブルッと身震いをする。
ワイアット司祭は魔物をキッと
あのとき、ドミニクを森に閉じ込めたのは、“カーライル”っていうんかぁ……。
『カーライル司祭の手記』は、カーライル司祭が亡くなる前に“例の鍵”といっしょに
魔物は燃え上がる炎を見て、ボナ村長の最後を思い出していた。
『長年にわたり人々を
しかし、私たちの様子を見ていた1匹の魔物が、突然襲いかかってきたのだ。
封印の鍵となる5つあるうちの4つの石を奪われた他、4人の司教が無惨に殺され、私は命からがらあの森から逃げてきた』
当初、その4つの石を東西南北に位置するそれぞれの教会に保管し、もう1つはその村で保管する予定だった。
私が無事に持ち帰った最後の希望となる石は、館への道しるべになるものであり、これがここにある限り、森に住む魔物たちはあの森から外へは出られないだろう。
不安なのは、私と命からがらにあの森から逃げ出してきた魔物がいるということだ。
いつの日か、この鍵を奪いにやってくるにちがいない。
デボルド=ベルモール公爵たちを再びこの世に出してはならない。
あの悲劇を繰り返さないためにも!
この鍵が魔物たちに渡らないことを祈って。