#06 魔物たちの館

文字数 1,540文字

ジゼル、聞いてくれっ! 今まで馬鹿げた話だと思ってたけど、デボルド=ベルモール公爵が吸血鬼だったって話、本当かもしれないぞっ!
どうしたのよ、急に。さあ、ブリュノ。ここから銀の杯を取ってちょうだい。
ああ、わかった。

 ブリュノは指示通り、木の箱から銀の杯を取り出す。


 ジゼルは手を組んで、目を輝かせる。


そうよ、この杯よ。ゾクゾクする……! それでブリュノ、デボルド=ベルモール公爵がどうかしたわけ?
二階の一番奥の部屋に……、(びん)()めにされた女のミイラが部屋中に埋め尽くされてるんだ……っ!
誓いを交わしたら、すぐに帰りましょう!
ああ、一分たりともこんなところにいたくないよっ! 
ええ、そうね。
あれ、この杯……、なんで底が凸凹(でこぼこ)してるんだ?
ここに石をはめ込むのよ。
石?
そうよ。全部、あなたが持ってるじゃない。マティスじいさんから預かったものと、ロープに縛られた老人からもらったルビーのことよ。
ああ、あれか……。
今から、私の言うとおりにルビーをはめて。まずは、(さかずき)の下の(くぼ)みからはめるのよ。そして、杯のまわりの4つの窪みにはめ込むの。そうよ、5つの石がそろって、はじめてここで“ひとつの鍵”となるんだから♡
 ジゼルは小瓶を開け、ルビーをはめ込んだ銀の杯に液体を注ぎ入れた。
それは?
聖水よ。
聖水?
だって、誓いをたてるんでしょ? さあ、あなたも誓ってブリュノ。あなただけが頼りなんだから……。

 ジゼルはそう言うと、ナイフで手のひらをサッと切ると、杯の中に自分の血を一滴垂らした。


 そして、ブリュノも同じように血を一滴垂らすと、ジゼルはナイフについた血をペロリとなめる。



 二人の血は円を描くように、ぐるぐると交ざり合い、ルビーのように真っ赤に染まっていく。


 そして、ブクブクとものすごい音をたてて、赤い煙がもくもくと出始めた。


なんだ、この煙……っ! ジゼルッ!!

 ジゼルの名を叫んだ瞬間、ブリュノは煙の中でクスクスと笑う彼女の驚きの姿を見てしまう。

ははははは……っ‼


 ゴロゴロズド────ンッ!!!



 雷鳴とともに空に閃光が走る。




 もくもくと広がる煙の中から、続々と現れる魔物たち。


 そして、その中にあのデボルド=ベルモール公爵の姿もあった。


クッハッハ! でかしたぞ、カミーユ。
はい、リュシアン様。この日を待ち望んでいました!
お、おい、ジゼル。どうしたっていうんだよ……っ!
ヒッヒッヒ。ジゼルだって? あんたの“ジゼル”ならとうの昔に食い殺してるさ!
な、なんだって!?
彼女は延々とおまえの名前を口にして────
────息絶えたよ。

 ジゼルの姿で語りながら、だんだんと本来の姿に戻っていく。


 ブリュノは頭を抱えながら、フラフラと後ろへよろめく。


うそだ、そんな…………!

 すると、そこへ1匹のコウモリが飛んできた。


 公爵の前までくると、フッと一瞬で人の姿に変わった。


公爵、お久しぶりです!
会いたかったぞ、ウォトキン! マティスは?
弟は飲んだくれだからなぁ、そのうち来るさ。
……マティスって、まさか……。

 ブリュノはサァと青ざめ、そこから逃げ出した。


 階段を滑り落ちるように駆け下り、早く早くと心の中で繰り返しながら、やっとの思いで扉を開けたときだった。



 ゴロゴロズド────ンッ!!!




 閃光が走った瞬間、霧の中から、ずぶ濡れた老人の顔が浮かび上がる。


おや、どうかなさったんで、若い兄さんや?
……まさか、アンタも、なのか?

 ブリュノが、老人に問いかけたときだった。


 不気味な笑い声とともに、魔物たちがぞろぞろとブリュノのまわりに集まって来た。

ククククッ……。
マティスじいさん……。
カミーユ!
カミーユ!
カミーユ、おまえの獲物だ!
……フッ!
The END……
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登場人物紹介

ブリュノ


ワインボトル職人

ジゼルが好き

ジゼル


村一の美女/貧乏で、兄弟が多い

ブリュノが好き

ワイアット司祭


カーライル司祭から日記と例の鍵を託されていたが……。

カーライル司祭

アンジェリン


ワイアット司祭の妹

ボナ村長

ウォトキン


魔物:コウモリになれる/マティスの兄

マティスじいさん


昼間から酒場で飲んだくれている

ドミニク


森の中でロープに縛られていた老人

マティス


魔物:マティスじいさんの本来の姿/ウォトキンの弟

ドミニク


魔物:ロープで縛られていた老人の本来の姿(ゴブリン)

カミーユ


魔物:食べた人間の姿になることができる/ドミニクの息子

オーギュスト・リュシアン・デボルド=ベルモール公爵

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