第4話
文字数 1,183文字
「うーん、見誤ったかな」
蚈は眼前の光景を眺めながらそんなことを一人呟く。
その光景は意識を失い倒れた紙魚川を護るように立ちはだかる守護霊の姿だった。禍々しい雰囲気を纏い、呪詛を垂れ流すように触手をうねらせる歪な姿は悪霊そのものだ。元は小柄な女性の姿だったが、大きさも二倍ほどにはなっている。
さて、ではなぜこんなことになったのかと言えば、だ。それは遡ること数分前、紙魚川と蚈の二人で紙魚川に合うマスクを選んでいた所、紙魚川の守護霊がマスクをつけたいと言ったのだ。蚈が気付くより先に紙魚川は何も思わずマスクを守護霊の顔に当てた訳だが、そうしたらこうなったという訳だ。紙魚川は意識を失い床に倒れ、守護霊はまるで悪霊のようになってしまった。しかしその根底には紙魚川を護るということがあるのだろう。それ故に、威嚇をするように蚈を目であろう部分で睨み付けている。
「あ、わかった」
そこで蚈は一つ思いつく。
「お前、守護霊を食ったな?」
あれは、守護霊ではないのだ。元々居た守護霊を食い、守護霊の座に居座った悪霊の一種だ。しかしではなぜ今まで紙魚川が無事で居られたのか。それは単純に考えて紙魚川に執着しているのだ。蚈は愛だの恋だのを重要視する人間ではないが、世の中にはそれを重要視する種類の人物たちも居ることを理解している。紙魚川に執着し、愛し、傍に居たいのだ。あれは。
「でもなあ、悪いけどその力はお前にはあげられないよ」
蚈はマスクの位置を少しずらし大声で「蛹ちゃん!」と叫ぶ。
「呼びましたか所長―!」
ものの数秒で蛹がやってきた辺り、扉の近くに居たのだろう。もちろん何があってもすぐに動けるように、だ。その辺りの気配りができる所を蚈は尊敬している。
「トラブル発生だよ蛹ちゃん。あいつは守護霊じゃない、もどきだ。まずは色々聞きたいことがあるけれどあの状態じゃ話にならない。いつも通りの方法で行こう」
「オッケーです。私が動きを止めて所長がヤルってやつですね」
「そうそう」
蚈がそう言うと蛹は蚈の方へと手を伸ばしハイタッチのポーズをとる。それに蚈は慣れた様子でパアンと音を立てて叩き返すと「いくよ」と言いもどきに向かって駆けだした。
「止めます!」
蛹のその言葉を合図に蚈は床を蹴るともどきの顔の高さまで飛び上がり、体を動かせなくなり慌てたもどきの顔をぶん殴った。その衝撃でマスクは外れ床に落ちもどきは大きくなった体を砂のように零し、元の姿に戻った。と、思われたがそこに居たのは黒柴犬だった。きょろきょろと周囲を見渡し、紙魚川が倒れているのを見つけると尻尾を振りながら駈け寄りその頬を舐めようとして触れられないことに気づき、尻尾を下げてしまった。
「これはいい方向に転んだかな?」
「まずは紙魚川さん起こさないとですね」
二人は顔を見合わせてそう言い合うと紙魚川のもとへ足を進めるのだった。
蚈は眼前の光景を眺めながらそんなことを一人呟く。
その光景は意識を失い倒れた紙魚川を護るように立ちはだかる守護霊の姿だった。禍々しい雰囲気を纏い、呪詛を垂れ流すように触手をうねらせる歪な姿は悪霊そのものだ。元は小柄な女性の姿だったが、大きさも二倍ほどにはなっている。
さて、ではなぜこんなことになったのかと言えば、だ。それは遡ること数分前、紙魚川と蚈の二人で紙魚川に合うマスクを選んでいた所、紙魚川の守護霊がマスクをつけたいと言ったのだ。蚈が気付くより先に紙魚川は何も思わずマスクを守護霊の顔に当てた訳だが、そうしたらこうなったという訳だ。紙魚川は意識を失い床に倒れ、守護霊はまるで悪霊のようになってしまった。しかしその根底には紙魚川を護るということがあるのだろう。それ故に、威嚇をするように蚈を目であろう部分で睨み付けている。
「あ、わかった」
そこで蚈は一つ思いつく。
「お前、守護霊を食ったな?」
あれは、守護霊ではないのだ。元々居た守護霊を食い、守護霊の座に居座った悪霊の一種だ。しかしではなぜ今まで紙魚川が無事で居られたのか。それは単純に考えて紙魚川に執着しているのだ。蚈は愛だの恋だのを重要視する人間ではないが、世の中にはそれを重要視する種類の人物たちも居ることを理解している。紙魚川に執着し、愛し、傍に居たいのだ。あれは。
「でもなあ、悪いけどその力はお前にはあげられないよ」
蚈はマスクの位置を少しずらし大声で「蛹ちゃん!」と叫ぶ。
「呼びましたか所長―!」
ものの数秒で蛹がやってきた辺り、扉の近くに居たのだろう。もちろん何があってもすぐに動けるように、だ。その辺りの気配りができる所を蚈は尊敬している。
「トラブル発生だよ蛹ちゃん。あいつは守護霊じゃない、もどきだ。まずは色々聞きたいことがあるけれどあの状態じゃ話にならない。いつも通りの方法で行こう」
「オッケーです。私が動きを止めて所長がヤルってやつですね」
「そうそう」
蚈がそう言うと蛹は蚈の方へと手を伸ばしハイタッチのポーズをとる。それに蚈は慣れた様子でパアンと音を立てて叩き返すと「いくよ」と言いもどきに向かって駆けだした。
「止めます!」
蛹のその言葉を合図に蚈は床を蹴るともどきの顔の高さまで飛び上がり、体を動かせなくなり慌てたもどきの顔をぶん殴った。その衝撃でマスクは外れ床に落ちもどきは大きくなった体を砂のように零し、元の姿に戻った。と、思われたがそこに居たのは黒柴犬だった。きょろきょろと周囲を見渡し、紙魚川が倒れているのを見つけると尻尾を振りながら駈け寄りその頬を舐めようとして触れられないことに気づき、尻尾を下げてしまった。
「これはいい方向に転んだかな?」
「まずは紙魚川さん起こさないとですね」
二人は顔を見合わせてそう言い合うと紙魚川のもとへ足を進めるのだった。