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文字数 896文字
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きょう生きることをあきらめたかった。
だれかとか、なにかを思い出してしまう予感のする祝日の月曜日。
席についた商業施設内の喫茶店のテーブルにて黙りこむ、クリームソーダのアイスをぼんやりと見つめることでどうにか会話ができた。向かいに座る彼女は、おそらく僕の顔をみつめているのであろう。「あなたって、人の目をみることが苦手なのね」と数分前に指摘されたばかりである。結局うまくできていない。
「あたしの顔って、そんなに見ていられないかしら?」と半笑いで彼女が訊ねた。
「そんなんじゃないんだよ」と僕は慌てて答える。「君が魅力的だから、と言えるよ」
口はうまいのね、と彼女は返してから、細長いスプーンを手にした。それから、僕のものと同じように立ち尽くしているクリームソーダのアイスをくずして一口すくって食べた。彼女は青いクリームソーダを注文した。僕が頼んだのは緑色。
「クリームソーダって、だいすきなの」
「甘いものが好きなの?」
のんのん、と彼女は首をひかえめに振る。「そんな簡単に束ねないでほしいわ」そして青いソーダ(ラムネだろうか?)の底をめがけて潜行しているストローに口をつける。静かにソーダの嵩が降りていく。僕もそれを真似て、メロンソーダのストローに口をつけた。
「束ねることって、すごく暴力的におもうの」
「そうだね」ごめん、と僕は謝る。
「クリームソーダが好きだから、甘いものが好き。ナンパしてきたから、陽気な人。よく笑うから、元気。あたし自身も、そんなように考えてしまっている時ってすごくあると思う。だけど、人間ってもっとめんどくさいものじゃない?」
「全くそう思う」
「訊いてもいい?」
僕はうなずく。「なにかな」
「なんであたしをナンパしたの?」ふたたび、彼女の声はすこし笑みを帯びていた。
僕はクリームソーダをもう一口飲んでから、口ごもりながら、ちょっと照れながら、答える。「すごく君と話したいと思ったんだ」
「あたしをみて?」
「君をみてだよ」
彼女はつづける。「あたしに予感がした、ってこと?」
僕は彼女のつかう言葉の表現に惹かれた。「そう。予感がした」
「あたしをみて?」
「君をみてだよ」