第8話

文字数 1,993文字

 ぼくの見た資料の中では、奴らは必ず赤い魔法陣を展開して魔法(砲)を撃っていた。人間が赤い魔法陣を広げているのは、見たことがない。
 つまりぼくたちは今、人間以外の魔法(砲)を使える何かに包囲されている。そして強力な魔法(砲)を雨のように撃ち込まれている。
「囲われたか……」
「だろうな」
 和尚に肯定しながらも、頭を低く、次々飛んでくる魔法(砲)をやり過ごす。
「橘花! 水無月・橘花三尉! どこだ!?」
 遮蔽に隠れた夏歌が叫ぶ。
「後ろに! 班長、後ろにいます!」
 それにぼくの真っ正面の遮蔽に隠れた橘花が叫んで返した。叫ばないと、頭上を通過する魔法(砲)の轟音にかき消される。
「状況を確認しろ! それができたら直ちに反撃だ!」
「報告します! けが人は10名。損傷は軽微。死者なし! F、G、共に通信途絶!」
「バカな……。いや、いい。敵は!?」
「確認出来る範囲では、いちょう通りからと、周辺建物から攻撃を受けています! 総数不明!」
「いちょう通りに分隊総火力の50%で砲撃開始! 5%は周辺に発煙弾を撃て!」
「総火力の50%でいちょう通り、5%で周辺に煙幕!」
 橘花は復唱しながら、タブレットを操作。画面に映し出された地図と班員を示すマーカー。
 橘花は味方のマーカーをタッチして、限定回線を開く。
「あなた達はいちょう通りに向けて魔法(砲)を撃ちまくって!」
 指示をひとつ出し、また別の班員を選択。煙幕の指示を出す。最近の戦争はチャットなしには語れないな。
 混乱しながらも、一年生たちは云われたとおりに行動を起こした。我がバディである和尚は砲撃に回った。
 砲撃が始まり、煙幕で敵の攻撃が緩んだ。
 だが、すぐに全く別の方向、真横から爆風が襲う。
「囲まれてるだと!? やつらがそんな器用な真似を!?」
 今までのやつらは、獣のように考えなしに突っ込んで来ては、ある程度痛めつけてやればそそくさと退散していた。知性の欠片もない様を晒していたらしい。
 それがどうだ。まるで人間相手はないか。
「負傷者! 負傷者は!?」
 そんな事より、そっちの方が気がかりでならなかった。
支援要請(コール)! 支援要請(コール)! こちらG・4! G・4! いちょう通り一番交差点! 敵襲を受けている! 攻撃を受けている!」
 誰かが叫んでいる。確かに助けを呼びたいのは分かるが、ここは最前線だ。救援は望めないだろうな。
「退路だ! ここは囲まれている! 巴・知佳はいるか!? 5人連れて退路を探せ! 全員カバーしろ!」
「わ、私ですか!?」
 橘花の隣で頭を抱えていた女の子が、突然の指名に仰天した。そうか、あの子巴 知佳というのか。初めて名前を知ったよ。
「お前だ! 人選は任せるから、さっさと探せ!」
「了解、しました!」
 知佳は真っ青な顔で、言われたとおりに5人連れてどこかへ消えた。彼女なにか特技でもあるのだろうか。こうして呼ばれた位なら、きっとなにかあるんだろうな。
支援要請(コール)! 支援要請(コール)! こちらG・4! G・4! いちょう通り一番交差点に支援要請! 敵火力は強力! 被害が出ている!」
「散るな! 集まれ! 隣りにいる仲間が、自分の恋人だと思って戦え!」
「ぼくはお前を恋人だとは、思いたく無いがな!」
「がはは! 拙僧もだ! 我が戦友よ!」
 こんな状況でも軽口は叩けるものだ。
 慎重に赤い魔法陣が集まる方向に、牽制射撃を加えていた和尚が笑う。
「敵は10時!」
「8時にもいる!」
支援要請(コール)! 支援要請(コール)!」
「貴様! 隆梨・圭介だな! 支援要請(コール)する暇があるなら、行方不明のFとGに呼びかけろ!」
「あ、は、でも……」
「黙れ海兵! 海兵隊なる者が助けを呼ぶな!」
「でも」
「海兵隊は、いつだって助けに行くものだ!」
 彼の言いたいことは、よく分かる。だが、現状はそれを許さない。
 彼も含め、ここにいる人間は全員が実働部の第四班。敵戦陣に、敵に奪われた地区へ一番最初に乗り込むのが使命なのだ。
 ここは敵中。援護は絶対に望めない。
『こちら巴! 退路発見! 位置情報送ります!』
「確認急げ! 把握したら退路へ! それと貴様らは私の脇にいろ! 殿だ!」
「ぼくたちが?」
「いいから私と同じ所を撃て!」
 ぼくは魔法(砲)が一番下手だ。いや、魔法(砲)も一番下手だ。
 それでも用命あったなら仕方ない。和尚と共に夏歌の隠れている遮蔽まで這っていく。
 夏歌は自分の小銃を構え、煙幕の向こう側のいちょう通りに一発撃ち込む。それにならって和尚も一発発射。
 杖の開発は、人間に絶大な戦力を与えた。
 魔導士は自分をスイッチとし、魔法陣である杖と、呪文である弾丸を接続し、魔力の込められた炸薬を燃焼させて、魔法(砲)を撃ち出す。それもほとんどタイムラグなしで、誰でも同じだけの効果を生み出す。
 だから最下位の成績であるぼくでも、他の班員と同じだけの成績が出せる。はずだ。
 ハズだった。
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