8 色について

文字数 1,639文字

8 色について
 「檸檬」は「レモンエロウの絵具をチューブから搾り出して固めたようなあの単純な色」そして「あの丈の詰った紡錘形の格好」と描かれている。主人公が爆破に使う「檸檬」は、「カーンと冴えかえった」色彩によって世界を破壊し、すべてを一体化する。「光そのものに色がついているということではない」(ニュートン『光学』)。色は、ベンサムのこまを見るまでもなく、知覚であり、ロールシャッハ・テストを考慮するまでもなく、心理現象な。色の見え方は、その意味で、主観的である。デカルトの延長は数量による分節を前提にしているが、色の分類は依然としてユークリッド的である。

 アメリカのマンセルは、一九一五年、色の種類(色相)・鮮やかさ(飽和度)・明るさ(明度)という色の三属性を利用して、色を立体によって分類することを考案している。マンセル以外にも、オストワルトやティチナーなど色を分類化したものは少なくないが、たんに幾何学的整合性にのみ固執せず、感覚的な配置も導入しているマンセル系ほどの成功をおさめることはなかい。ただ、マンセルの扱った対象は物体色であって、光源色ではない。

 色はさまざまな角度から論じられ、今日ではその議論の形成する形はかなり複雑である。色は、文化や言語によって意味や語彙が異なることを含めて、色彩論によって広範囲かつ周到に考察されている。色について考えることは、確かに、知的好奇心をそそる。赤や黄色の暖色は、青や緑の寒色に比べて、同じ面積の色紙でもより大きく見えることから、前者を膨脹色、後者を収縮色と呼ぶ。また、前者は後者より突出して見えるので、前者を進出色、後者を後退色とも呼ぶことがある。

 赤と緑、黄色と青は反対色性にある。レオナルド・ダ・ヴィンチは反対色を活用すると、色が響きあい、その絵は見栄えすると反対色の使用を勧めている。また、太陽の光は最も飽和度が高い。

 色には三色性がある。それはいかなる色であっても互いに独立した三つの色を適当--加法混色や減法混色--に混ぜあわせれば、つくることができるという性質である。クオークの電気の性質も赤・青・緑の三色を譬えとして用いている。三色性を利用した分類として国際照明委員会の勧告するXYZ表色系があげられる。

 檸檬は植物に属する。植物の色について言及しよう。パンジーの花に酢といった酸性溶液をかけると赤くなり、重曹水のようなアルカリ溶液だと青く変色する。さらに、自然の花は、たいてい、もっと複雑である。紫陽花の花は赤や青があるが、どちらも色素は同じだ。アルミニウムを吸収すると、紫陽花は青い花になるのである。桜の樹の下には屍体が埋まっているが、青い紫陽花の下にはアルミニウムの成分が土や水に含まれている。

 花の色において、全体の三二%を占めている白い花にはアンモニアなどのアルカリ性の気体に触れると黄色に変色する性質がある。この白い花の色素は、実は、透明である。細胞の隙間に入った空気が光を乱反射するために、人には白く見える。花の色には人に見られるのではなく、昆虫を集めて受粉してもらう目的がある。蜂は紫外線は見えるが、赤い色が見えないので、青い花に集まり、赤い花には見向きもしない。他方、赤い花には蝶が集まってくる。

 その上、野菜や果物の色は紫外線から種・実を守るためのものだが、その色素には、人間の健康にとって色に応じて解毒作用を中心としたさまざまな効用がある。最もプリミティヴな色である緑はクロロフィルによるものであり、増血作用がある。紫は視力低下に有効なアントシアニンである。茶色は、夏ミカンやグレープフルーツも含まれるが、血管を強くするフラボノイドである。黄色はカロチンであり、呼吸器系の免疫力を高める。赤はカロチンと同じ効果もあるし、さらに子宮ガンにも有効な色素のリコピンである。カロチンとリコピンは合わせて摂取するとその力が増加する。ただし唐辛子の赤は免疫力を高め、脂肪を減らすカプサンチンである。
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