第7話 スカウト

文字数 1,235文字

「え?私が!?」
考える間も無く先に声が出てた。七川さんはゆっくり頷いた。
「萌愛さん、事務所から追い出させれたんではないですか?」
「あ、それは……。」
私は萌愛じゃないから。
「だってあんなところでうずくまってたんですよ?何も無かったとは思えません。」
「違います!」
今言わなくちゃ!今しかない!
「私は!萌愛じゃないんです!」
「はい?」
「私は……。」

「そういうことでしたか。」
全てを話してみる。自分でもよく分からないところもあったけど、何とか全部を話終えた。七川さんはじっと考え込むように、床を睨んでいる。
「だから、スカウト、の、お話はお断りさせていただきます。」
スカウトって声に出してから、自分がスカウトされたわけでもないから、ちょっと恥ずかしくなる。
「失礼します。」
ソファーから立ち上がり、ドアノブに手をかけても七川さんは私を止めなかった。

「はぁー。」
家に帰ってからベッドに突っ伏す。あー!嘘つきは泥棒の始まり。嘘なんてつかなきゃ良かった。七川さんに悪いことしちゃったよ。スマホを見たら、あれ?不在着信?帰りの歩いてる時にでも電話かかってきたのかな?留守電を聞いてみる。
「望愛さんには輝きがあります。絶対売れますよ!」
「え?七川さん?」
留守電の七川さんは、もちろんこっちの返事なんて聞こえない。私の声に被せるように七川さんは続けた。
「雑誌で見る萌愛さんよりも、さっきの望愛さんの方が輝いてましたよ。」
「え……。」
それって、私が萌愛じゃなくて望愛として輝いてるってこと?萌愛よりも?
「うちの事務所なら私がマネージャーとしてついて、絶対望愛さんの凄さを世界に広められますよ!」
私の凄さ……?
「もしご興味がありましたら、来週の土曜日、もう一度事務所に来てください。本気でモデルを目指されるんでしたら、親御さんも一緒に来ていただいてください。お待ちしています。失礼します。」
ツーツー。
あっという間に留守電は終わり、私はスマホをベッドに落とした。
「私が望愛としてスカウトされてる?」
声に出して言ってみると、ぶわっと心の中に実感がわいてくる。私がモデルに?いやいやいや!無理無理無理!そんな可愛い雰囲気もオーラもない私なんかにモデルなんて絶対無理!でも、
「でも……。」
私モデルのお仕事してみたい……かも。でも、そんなことしたら萌愛とライバル……だよね。事務所も違うし。そんなの嫌だよ!双子なのに、ライバルなんて!でもでもでも……。私は望愛として輝きたい!萌愛に関わるなって言われたけど、いつまでも萌愛の影に隠れて、自分のチャンスをダメにするなんて嫌だ。そう!そして!いつか双子で表紙を飾ってみたい!萌愛にも認めてもらえるようなモデルになって、双子で表紙を飾るの!そのためには!まずママを説得しなきゃ!今日は土曜日。一応週休2日だけど、ママは土日じゃなくて、日曜日と他の平日が休みの方が多い。だから今日は私が夜ご飯作らなきゃ!私はママが仕事から帰ってくるのを待ちながら夜ご飯を作ったんだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

秋山望愛(のあ)

クラスで顔が可愛いと有名。


秋山萌愛(もあ)

そこそこ人気のモデル。

かっこいい路線で売り出している。

七川優花

望愛のマネージャー。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み