第5話 始まりの日
文字数 3,229文字
今日は1限:理科、2限:社会、3・4限:美術、5限:体育、6限:国語だ。
1限の理科の先生は馴染みの副担任:金井先生。
いつものように少年のような笑顔を浮かべながら楽しそうに授業をしている。
入学して4週間、未だに金井先生の真顔を見たことがない…。
まるで金井先生の真顔が笑顔なのかと錯覚してしまいそうだ。
「今日は、外へ出て学校内に生息している植物や虫を観察してもらいます。他のクラスは授業中なので静かに移動してください。外へ出たら、それぞれ自由に観察してプロントにその様子を記入してください。」
『静かに移動してください。』そんな言葉は生徒には聞こえなかったらしい。
私のような超大人しく、無口な生徒以外は皆くちゃくちゃとお喋りをしながら移動している。
楽しそうで何よりですね。
そんな風に頭の中で皮肉を垂れても誰にも届かないのがまた、私の気持ちを虚しくさせる。
ええ、そうですよ。
私は未だにぼっちですよ。
何でアキには友達がいて、私には友達がいないのか疑問点でしかない。
なんで、私には誰も話しかけてくれなかったのだろう。
心虚しいまま、私は1人で中庭に出て、1人で小池の小さなオタマジャクシを眺める。
そう、1人で。
クラスメイトは皆、別のところで蝶々とか、タンポポとかを友達同士で観察している。
1人なのは私だけ。
そして、私の周囲には友達連れすれいない。
少し狭い中庭の中で、私は孤独。
虚しい気持ちを抱えて、オタマジャクシと池の水の中に生息している水草を観察している風に下手くそな絵を描いていると隣に誰かが座った。
「うわっ」
思わず声を上げてしまった。
隣を見るとそれは、金井先生だった。
少しにこっと微笑むと言った。
「驚かせちゃった?ごめんね。ところで何見てるの?」
「オ……オタマジャクシです。あと、水草。」
「オタマジャクシか。蝶々とかよりこっちの方が好き?」
「あっちは、皆ごちゃごちゃしているから…。あ、爬虫類は好きです。」
「そかそか。」
金井先生は決して『皆と一緒に見ないの?』とは言わなかった。
きっと、私がクラスで孤立していることを知っているんだ。
まぁ一目瞭然だよね。
あーあ、恥ずかしい。
本当に恥ずかしい。
黙り込んだ先生は私に再び話しかけてきた。
「まだちょっと馴染めない感じかな?いや、いいんだよ。それは人それぞれだから。」
「なんか、あの人たちの輪の中に入るのは負けているようで嫌なんです。」
私は強がって、『本当は友達が欲しくて欲しくて仕方がない』なんてことは言えなかった。
本当はめちゃくちゃ辛いのだ。
でも、そんなこと言えない。
本当のことなど、言えるわけがない。
そんなダサくて、弱弱しい。
金井先生は、すくっと静かに立ち上がると「よし、皆教室に戻るよー。もう少しでチャイムが鳴る。」そう言って、歩き出した。
2限の社会の先生は坂木シュウ先生。
少し強面で、野球部の顧問であることもあり、生徒からは少し怖がられている。
特に野球部員の生徒だと、授業中は縮こまっている。
私の眼からはそこまで怖そうには見えないのだが、皆は違ったらしい。
人は見た眼なんかでくくれないのだから。
強面で、圧力を感じる坂木先生だが、本人を観察してみると意外な一面と言うものも沢山あるのである。
のそのそと、教室に入ると生徒はみな鐘もまだ鳴っていないのに黙って席に着く。
号令をし、授業は始まる。
「今日は、学校近くの神社に行くんだけど、くれぐれもご近所さんのご迷惑にならないように。神社に言ったら、神社にある建物とかを観察してもらうから、メモを取れるものを持って出て言ってな。じゃあ、移動。」
流石に坂木先生の時では廊下では皆お喋りすることなく静かに移動している。
こういう、担当教員によって態度を変えるのが私には納得いかない。
少し苛立つ。
「じゃあ、20分くらいここにいるから、ここからは出ないこと。自由に回ってみて。」
坂木先生はそういうと、1人で境内を観察しだす。
他の生徒は皆友達と共に神社内を散歩している。
私に友達なんかいないから、私はここでもまた1人で観察。
でも、メモなんかすぐに終わって、私にはすることがなくなった。
大きな木を眺めていると、暇そうにしている子たちがいたから勇気を出して話しかけてみる。
確か、安西さんと熊井さん。
いつも一緒にいて、仲がよさそう。
「暇だね。」
「う、うん。そうだね。」
そう返してくれたものの、少し沈黙すると2人は私から離れて行ってしまった。
何も話題を用意できなかった私も悪いけど、何かしら言ってくれたっていいんじゃないの?
てか、私を放置していかないで…。
もう無理なのかな。
少し涙が流れそうになるが、それはぐっとこらえた。
私は弱虫なんかじゃない。
そして、泣き虫なんかでもない。
こんな所で泣くような恥は見せられない。
地獄のような20分が終わった。
「じゃあ、教室に戻るか。皆いるかな。」
あーあ、何で今日はこんなに虚しい気持ちにならなければならないのだろう。
誰にも助けを求められない。
きっと、これはいじめとは言わないのだろう。
だって私は孤立してしまっているだけだから。
皆から避けられているだけだから。
避けられるようなことをした私の方が悪いって、全ての人は言うのだろう。
友達がいないくらいで辛いなんて言っているような奴が心が弱いだけなんだと言われるだけなんだ。
だけど、今日はすごく辛い気持ちになるのだ。
孤立しているのは辛い。
胸が嫌な感じにヒリつく。
3・4限は美術で教員は霜田アズミ先生。
女性で美術なのだが、剣道部の顧問でもある。
いかにも異様そうなその手は美しい。
どうやら今日の私はついていないらしい。
ここでもまた『友達仲良しプレイ』が開催された。
「折り紙を半分に折って、近くの人と交換してください。」
そんなこと言っているから、私は隣に座っていた中村さんに「ねね、交換してくれるかな?」と相手に聞こえるように交渉を持ちかけた。
でも、無視された。
目の前に座っていた中村にも聞こえたらしくて、こっちを見ている。
無視された私は誰とも交換することができなくて、どうしようかと思っていたら教室を回っていた霜田先生が近くを通った。
「何しているの?藤宮さん。早く作りなさい?」
「でも先生。交換してくれる人がいなくて…」
「それなら、表と裏を組み合わせればいいでしょう?」
霜田先生はいらいらしたように、そういうと虫でも見るかのような目で私を睨んでまた歩き出した。
あれ?
先生って、生徒の見方じゃないの?
私は先生にすら嫌われているの?
これって、将棋で言う『詰み』じゃない?
もういいや、私はそういう人間なのかもしれない。
家でも好かれない、学校でも好かれない。
私を好いてくれる人なんて誰もいないんだ。
そんな人間なんだ。
私はまた泣きそうになったが、ここも何とか涙をのみ込んだ。
こんなことで、こんな奴らのために涙なんか流すものか。
昼休みになれば、フウコと話せるのだから。
我慢すればいいのだ。
5限の体育はフウコのいるクラスト合同で行うが、友達がいるところだとは言え辛いことには変わりない。
なぜならば、クラス内でのグループ編成を強要されているからだ。
理解できない。
こんなシステムだから、虐めとか孤立とかが発生するんだ。
そして今日も私は、孤立してペアを組み人がいないから先生とペアを組んで準備運動をした。
本当に恥ずかしい。
いや、本当は1人余った場合は3人でするはずなんだけど、私とは準備運動をしたくないらしくて誰も入れてくれないのである。
もう、私の心の中は大洪水である。
今日はドッヂボールであった。
私には選択権がないらしく、外野決めにすら参加させてもらえないのはいつものこと。
強制的に内野に入れられた私はボールを維持でも触らせてもらえないだけ。
意味が分からない。
この人たちはスポーツマンシップというものを知らないのだろうか?
そこまでして、私を陥れたいの?
どうせなら、この醜い心を持った人たちを社会の地獄に閉じ込めておきたい。
そう思うのであった。
1限の理科の先生は馴染みの副担任:金井先生。
いつものように少年のような笑顔を浮かべながら楽しそうに授業をしている。
入学して4週間、未だに金井先生の真顔を見たことがない…。
まるで金井先生の真顔が笑顔なのかと錯覚してしまいそうだ。
「今日は、外へ出て学校内に生息している植物や虫を観察してもらいます。他のクラスは授業中なので静かに移動してください。外へ出たら、それぞれ自由に観察してプロントにその様子を記入してください。」
『静かに移動してください。』そんな言葉は生徒には聞こえなかったらしい。
私のような超大人しく、無口な生徒以外は皆くちゃくちゃとお喋りをしながら移動している。
楽しそうで何よりですね。
そんな風に頭の中で皮肉を垂れても誰にも届かないのがまた、私の気持ちを虚しくさせる。
ええ、そうですよ。
私は未だにぼっちですよ。
何でアキには友達がいて、私には友達がいないのか疑問点でしかない。
なんで、私には誰も話しかけてくれなかったのだろう。
心虚しいまま、私は1人で中庭に出て、1人で小池の小さなオタマジャクシを眺める。
そう、1人で。
クラスメイトは皆、別のところで蝶々とか、タンポポとかを友達同士で観察している。
1人なのは私だけ。
そして、私の周囲には友達連れすれいない。
少し狭い中庭の中で、私は孤独。
虚しい気持ちを抱えて、オタマジャクシと池の水の中に生息している水草を観察している風に下手くそな絵を描いていると隣に誰かが座った。
「うわっ」
思わず声を上げてしまった。
隣を見るとそれは、金井先生だった。
少しにこっと微笑むと言った。
「驚かせちゃった?ごめんね。ところで何見てるの?」
「オ……オタマジャクシです。あと、水草。」
「オタマジャクシか。蝶々とかよりこっちの方が好き?」
「あっちは、皆ごちゃごちゃしているから…。あ、爬虫類は好きです。」
「そかそか。」
金井先生は決して『皆と一緒に見ないの?』とは言わなかった。
きっと、私がクラスで孤立していることを知っているんだ。
まぁ一目瞭然だよね。
あーあ、恥ずかしい。
本当に恥ずかしい。
黙り込んだ先生は私に再び話しかけてきた。
「まだちょっと馴染めない感じかな?いや、いいんだよ。それは人それぞれだから。」
「なんか、あの人たちの輪の中に入るのは負けているようで嫌なんです。」
私は強がって、『本当は友達が欲しくて欲しくて仕方がない』なんてことは言えなかった。
本当はめちゃくちゃ辛いのだ。
でも、そんなこと言えない。
本当のことなど、言えるわけがない。
そんなダサくて、弱弱しい。
金井先生は、すくっと静かに立ち上がると「よし、皆教室に戻るよー。もう少しでチャイムが鳴る。」そう言って、歩き出した。
2限の社会の先生は坂木シュウ先生。
少し強面で、野球部の顧問であることもあり、生徒からは少し怖がられている。
特に野球部員の生徒だと、授業中は縮こまっている。
私の眼からはそこまで怖そうには見えないのだが、皆は違ったらしい。
人は見た眼なんかでくくれないのだから。
強面で、圧力を感じる坂木先生だが、本人を観察してみると意外な一面と言うものも沢山あるのである。
のそのそと、教室に入ると生徒はみな鐘もまだ鳴っていないのに黙って席に着く。
号令をし、授業は始まる。
「今日は、学校近くの神社に行くんだけど、くれぐれもご近所さんのご迷惑にならないように。神社に言ったら、神社にある建物とかを観察してもらうから、メモを取れるものを持って出て言ってな。じゃあ、移動。」
流石に坂木先生の時では廊下では皆お喋りすることなく静かに移動している。
こういう、担当教員によって態度を変えるのが私には納得いかない。
少し苛立つ。
「じゃあ、20分くらいここにいるから、ここからは出ないこと。自由に回ってみて。」
坂木先生はそういうと、1人で境内を観察しだす。
他の生徒は皆友達と共に神社内を散歩している。
私に友達なんかいないから、私はここでもまた1人で観察。
でも、メモなんかすぐに終わって、私にはすることがなくなった。
大きな木を眺めていると、暇そうにしている子たちがいたから勇気を出して話しかけてみる。
確か、安西さんと熊井さん。
いつも一緒にいて、仲がよさそう。
「暇だね。」
「う、うん。そうだね。」
そう返してくれたものの、少し沈黙すると2人は私から離れて行ってしまった。
何も話題を用意できなかった私も悪いけど、何かしら言ってくれたっていいんじゃないの?
てか、私を放置していかないで…。
もう無理なのかな。
少し涙が流れそうになるが、それはぐっとこらえた。
私は弱虫なんかじゃない。
そして、泣き虫なんかでもない。
こんな所で泣くような恥は見せられない。
地獄のような20分が終わった。
「じゃあ、教室に戻るか。皆いるかな。」
あーあ、何で今日はこんなに虚しい気持ちにならなければならないのだろう。
誰にも助けを求められない。
きっと、これはいじめとは言わないのだろう。
だって私は孤立してしまっているだけだから。
皆から避けられているだけだから。
避けられるようなことをした私の方が悪いって、全ての人は言うのだろう。
友達がいないくらいで辛いなんて言っているような奴が心が弱いだけなんだと言われるだけなんだ。
だけど、今日はすごく辛い気持ちになるのだ。
孤立しているのは辛い。
胸が嫌な感じにヒリつく。
3・4限は美術で教員は霜田アズミ先生。
女性で美術なのだが、剣道部の顧問でもある。
いかにも異様そうなその手は美しい。
どうやら今日の私はついていないらしい。
ここでもまた『友達仲良しプレイ』が開催された。
「折り紙を半分に折って、近くの人と交換してください。」
そんなこと言っているから、私は隣に座っていた中村さんに「ねね、交換してくれるかな?」と相手に聞こえるように交渉を持ちかけた。
でも、無視された。
目の前に座っていた中村にも聞こえたらしくて、こっちを見ている。
無視された私は誰とも交換することができなくて、どうしようかと思っていたら教室を回っていた霜田先生が近くを通った。
「何しているの?藤宮さん。早く作りなさい?」
「でも先生。交換してくれる人がいなくて…」
「それなら、表と裏を組み合わせればいいでしょう?」
霜田先生はいらいらしたように、そういうと虫でも見るかのような目で私を睨んでまた歩き出した。
あれ?
先生って、生徒の見方じゃないの?
私は先生にすら嫌われているの?
これって、将棋で言う『詰み』じゃない?
もういいや、私はそういう人間なのかもしれない。
家でも好かれない、学校でも好かれない。
私を好いてくれる人なんて誰もいないんだ。
そんな人間なんだ。
私はまた泣きそうになったが、ここも何とか涙をのみ込んだ。
こんなことで、こんな奴らのために涙なんか流すものか。
昼休みになれば、フウコと話せるのだから。
我慢すればいいのだ。
5限の体育はフウコのいるクラスト合同で行うが、友達がいるところだとは言え辛いことには変わりない。
なぜならば、クラス内でのグループ編成を強要されているからだ。
理解できない。
こんなシステムだから、虐めとか孤立とかが発生するんだ。
そして今日も私は、孤立してペアを組み人がいないから先生とペアを組んで準備運動をした。
本当に恥ずかしい。
いや、本当は1人余った場合は3人でするはずなんだけど、私とは準備運動をしたくないらしくて誰も入れてくれないのである。
もう、私の心の中は大洪水である。
今日はドッヂボールであった。
私には選択権がないらしく、外野決めにすら参加させてもらえないのはいつものこと。
強制的に内野に入れられた私はボールを維持でも触らせてもらえないだけ。
意味が分からない。
この人たちはスポーツマンシップというものを知らないのだろうか?
そこまでして、私を陥れたいの?
どうせなら、この醜い心を持った人たちを社会の地獄に閉じ込めておきたい。
そう思うのであった。