『ぼくは勉強ができない』山田詠美

文字数 1,063文字

 中学生になると読書は漫画中心になりましたが、赤川次郎さんのミステリーや、いろんな作家さんの少女小説も読んでいました。

 高校生の頃は銀色夏生さんの写真詩集や吉本ばななさんの『キッチン』の世界にうっとりしました。吉本ばななさんの作品は『キッチン』に収録されている『ムーンライト・シャドウ』と『とかげ』に収録されている『血と水』が好きで何度も読みました。『血と水』どんな話だったかなぁ。また読みたいなぁ。

 山田詠美さんの『ぼくは勉強ができない』は、代替講師として初めて学校で働き始めた頃に出会った本です。
 本なのですが私にとってはCDを聴くようにその価値観が自然に体のなかに入ってくる感覚でした。うまく言えないですが、お気に入りの音楽を何度も聴くように、繰り返し読んでいたように思います。

 小学校高学年頃から、オトナを斜めに見る生意気な思春期、反抗期を過ごした私は、中学時代「この世で一番なりたくない職業は中学校の教師。あんな、やればやるほど嫌われるような仕事をなんでやるんやろ」と宣っていました。そう思っていたのに、気がつけばひっしで目指すという……人生ってわかりません。
 
 この本の、ちょっと子どもらしからぬ視線を持つ主人公や、ふつうのことを言わない大人たちに共感を持ちました。
 社会に一歩踏み出して大人の世界に染まっていこうとしている自分は、こういう気持ちを忘れたくないと、無意識のうちに思っていたのかもしれません。

 その中のひとつの話、ある女子高生のセリフも印象に残っているのですが……手元にないので私の記憶の範囲です。

 体が丈夫ではない強気な美少女に恋した男子が出てくるのですが、その男の子が「虚無」とか口走るのです。女の子は「虚無ってなによ。そんなこと言って自分に酔っているようなやつ大嫌い」(うろ覚えです)というようなことを言うのです。
 その女の子が貧血かなにかを起こし、「なにがいやって、しんどいときは思いやりとか世の中とかどうでもよくなる。しんどいが全てになる」みたいなことを言うんです。「それが一番いやだ」みたいなことを。
 それ、わかるなぁと。私も持病を抱えてなにがいやって、しんどい時にいつも以上に心が狭くなるし、なんなら攻撃的にすらなってしまうこともあって、それがなによりいやだなぁと思います。そんなふうに自己嫌悪になるたびに『ぼくは勉強ができない』のあの子が語るあの場面を思い出します。

 『ぼくは勉強ができない』は人にあげてしまい、再購入しました。そしてまたそれも人にあげてしまって私の手元にないのです。
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