この世界であって、この世界でない場所

文字数 489文字

 真っ白い部屋、少女はベッドに腰かけている。
 何もない、誰もいない──

 いえ、枕元に置かれたぬいぐるみだけが少女を見ている。
 そう、そこはただの安全で清潔なだけのつまらない部屋。
 ここに窓はない、昼も夜もない、天井の蛍光灯だけが白い光を永久に放ち続けている。
 少女はもう何年も外に出ていない。
 もちろんそれは少女を守るため。
 少女は外に出ては一人で生きていけないから──

 どこか遠くのほうからサイレンの音が聞こえてくる、変化はおとずれる。
 逃げなくっちゃ、でも無理なの。
 ずっと前からそうだった、逃げることは許されない。
 あいつが許さない。
 あいつは私の弱みを握っている。
 あいつは私を助けた恩があると思っている。
 もちろんそれは真実だけど、あいつがそれだけで殺したのではないのは知っている。
 あいつにとっては存在の証明、ただの快楽。
 今度あいつを止めたら、あいつは私を許さない──

 絶対に許さない。
 もう痛いのは嫌だ、絶対に嫌だ!
 殺すなら優しく殺せ!
 汚い言葉をかけながら、優しく──

 少女はウサギのぬいぐるみを力いっぱい握る。
 捻って握る。
 捻って潰すように強く握り潰す。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み