源義経黄金伝説第20話

文字数 2,191文字

源義経黄金伝説■第20回★東大寺大仏再建を計る重源は、東大寺闇法師、僧兵の中から選ばれた戦人(いくさびと)、十蔵に命令する。

源義経黄金伝説■第20回★

僧衣の男、十蔵じゅうぞうが重源ちょうげんの前に呼ばれる。

十蔵は東大寺のために荒事を行う闇法師である。

東大寺闇法師は僧兵の中から選ばれた戦人いくさびとである。

十蔵は陰のように重源の前に、出現していた。



「十蔵殿、わざわざ、かたじけない。今度の奥州藤原氏への西行殿の勧進、大仕事です。西行殿にしたがって奥州に行ってくださるか」



「あの西行さまの……わかりました」



「さて、十蔵殿、今、述べたのは表が理由です」

「重源様、まだ別の目的があるとおっしゃいますか」



「さようです。西行殿は私が思いどおりには動いてくださらぬかもしれぬ。

ましてや、この時世。鎌倉の源頼朝殿が、奥州藤原氏と一戦構えるかもしれません。



よろしいですか、十蔵殿、西行殿が我々東大寺を裏切らぬとも限らせんぞ」



「西行様が東大寺や重源様を裏切ると。しかし、西行様は、もう齢七十でございましょう」



「いや、そうであらばこそ、人生最後の賭けにでられるかもしれません。西行殿は義経殿と浅からぬ縁があります。この縁はばかにはできませんぞ。十蔵殿、よいか、こころしてかかれよ」



「西行様が 東大寺の意向にしたがわぬ場合は、、」



「十蔵殿は、ただただ、東大寺のために動いて下され」

 重源は気迫のこもった眼差しで、十蔵に命じた。

 

重源にとっても、この大仏再建の仕事は大仕事。失敗する訳にはいかなかった。

重源は自らを歴史上の人物と考えていた。



重源の使命。いや生きがいは、今や東大寺の再建であった。



先に重源は平家の清盛から依頼され、神戸福原の港を開削していた。

支度一番したくいちばんー日本で一番。

この日の本に、重源以上の建築家集団を統べる人間は、存在しないのである。



 重源は世の中に形として残るものを、生きている間に残しておきたかったのである。重源の背後には宋から来た陣和慶という建築家がいた。また朝鮮半島から渡ってきた鋳物師もいる。



 そして、有り難いことに運慶、快慶が同時代人であった。



この日本有数の彫刻家、運慶工房とも思える彫刻工房を作り上げ、筋肉の動きを正確に表す、誠に力強い存在感のある彫刻像を続々と作り上げていった。

日本の始まって以来、二度目の建築改革の波が押し寄せて来たかのようであった。



「重源様のご依頼でございますならば。このことをお断るわけにもいきますまい」

 十蔵はにやりと笑う。そしてつけくわえた。



「西行様のこと、承知いたしました。が……」

 

東大寺闇法師は自らの意志などもたぬ。



その東大寺闇法師の十蔵が、何らかの意向を重源に告げようとしていた。不思議な出来事であった。

「十蔵殿、まだ何か、まだ疑問がございますか」



 切り返す十蔵の問いにはすごみがあった。

「私十蔵の死に場所がありましょうか」



 重源は冷汗をかき答えた。



死に場所だと、十蔵めが、東大寺闇法師は東大寺がために死ぬことが定め。が、



その十蔵とかいう男は、別の死に方を求めている。それも自らが東大寺闇法師中の闇法師という自信を持って言っているのだと、ようやく重源は思い答えた。



「十蔵殿、、、時と事しだいでしょうな」



 それにたいして

「わかりもうした」平然と言う十蔵だった。



 十蔵はすばやく姿を消した。





「十蔵め、この仕事で死ぬつもりか」



 重源は、十蔵が消えた方向を見遣り、つぶやく。



「まあまあ、重源様。そう悩まずともいいではございませんか。重蔵殿にまかしておかれよ。茶を一服どうでございますか」



 話を聞いていたのか、後から一人の若い僧が手に何かを持って現れている。巨大な頭のハチに汗がてかっている。



 栄西であった。



 重源と栄西は、留学先の中国で知り合い、友人となっていた。



 そして、栄西は、仏典とともに、日本の文化に大きな影響をもたらす「茶の苗」を持ち帰っていた。栄西が手にしているのは、茶である。まだ、一般庶民は、手に入れることができぬものである。



「ほほう、どうやら、茶は根付いたと見えますな。よい匂い、味じゃ。妙薬、妙薬」

 重源は、栄西が差し出す茶碗をうまそうに啜った。

「さすがじゃのう、栄西殿。よい味です」

 その重源の様子を見て、栄西が尋ねる。



「重源様、どう思われます。この茶を関東武士たちに、広めるというのは」

「何と、栄西殿。あの荒々しい板東の武者ばらに、この薬をか…」

 

重源は茶に噎せた。



 重源は少し考え込む。やがて意を決したように、若者のように眼を輝かせながら言った。

「いい考えかも知れません。思いもかけぬ組み合わせですが。京都の貴族よりも、むしろあの武人たちをおとなしくさせる薬効があるかもしれませんな」

 なるほど、栄西はおもしろいことを考える。



 重源や栄西には、自負があったのだ。日の本を実質動かしているのは、貴族でも武士でもない。我々、学僧なのだ。



僧が大和成立より、選ばれた階級として、日の本のすべてを構築してきたのだ。それを誰もが気付いておらぬ。が、大仏再建がすでに終わり、この東大寺再建が済めば、我々の力を認めざるを得まい。重源の作るものは形のあるもの。



そして、栄西は、茶というもので、日の本をいわば支配しようとしている。

ふふ、おもしろいと重源は思った。



続く20210823改訂★

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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