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文字数 1,157文字

 泣きじゃくるスージーをなんとかなだめると、ようやく話を聞くことができた。

「前庭に落ちてたんだよ。だから、誰かが捨てたんだと思ってた」

「捨てる?」

 首を傾げるレイモンドとモリスに、ライアンが解説する。

「ここらへんじゃ、窓から平気でゴミや汚物を捨てる連中が多いんだよ。上の階に住んでるヤツなんて特に」

 そう言われるとたしかに、道すがら、ぶちまけたような状態のゴミがやけに多かった気がする。呆れたが、それについて今しのごの言ってもしかたない。

「あの色の違う土、あれはその跡だね?」

 気を取り直して、レイモンドが優しく訊くと頷き、言葉を続けた。

「大切に育てられてるようには思えなかった。土なんかカラカラに乾いてて、葉や花も枯れかけてた。蕾がつくころには、たっぷり水をあげなきゃいけないのに、そんな手間をかけてもらえなかったんだと」

 ここでモリスは、ビリーに目をやった。初めて聞いた知識なのか、驚いたように目を見開いている。どうやら、スージーの言っていることは事実のようだ。

「ずいぶん育て方に詳しいんだね」

 そう声をかけると、スージーはすこしだけ胸を張った。

「住み込みで植木屋の下働きをしてたからね。職人にはなれないけど、たまに植木はいじらせてもらえた。親方が廃業しちまって、家に戻ってきたけど」

「君もフラワーショーに参加すればよかったのに」

 レイモンドが言うと、悲し気な顔をした。

「苗を買うお金も持ってないんだ。働き口がなくなったばっかりだったから。呼び売りもやり始めたけど、まだ慣れてないから、あんまり割り当てももらえない」

 また泣きそうになったので、モリスがハンカチを差し出すと、驚いた顔をしたあと、怖々とした様子で目元を拭った。もしかしたら、人生で初めて使ったのかもしれない。
 そうやって自分を気にかけてくれる人間が存在すると知ったからだろうか。素直に話し始めた。

「今日だってもう、売るもんがないから、しかたなく帰ってきてたんだ。家に戻ってきたんならもっと稼げ、って、父ちゃんにも殴られてばっかだ」

 それから、クレマチスをビリーに返した。
 レイモンドとモリスは、父親に殴られるのを当然のように語る姿に、眉を顰めた。

「失くして困ってるなんて知らなかったんだ。ごめんよ」

 素直な謝罪に、ビリーも黙って頷いた。

「ちゃんと水やってね。もうすぐ綺麗に咲くはずだから」

「うん」

 無事戻ったクレマチスを抱えて、ビリーが軽い足取りで階段を上がって自宅へと帰っていくのを見送ったあと、モリスはため息をついた。

「鉢植えが見つかったのはいいですけど、スージー、なんだか気の毒ですね」

「ああ」

 建物を出ながら、レイモンドはなにやら考え込んでいるようだった。衣装屋までの道を戻るあいだも、いつものおしゃべりは出ず、ほとんど黙ったままだった。
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