文字数 600文字

 面識のない男にいきなり暴力を振るわれる理不尽に、私は憤慨した。
「この私が、お前に何をしたというのだ?」
「貴様は街の人々の記憶や思い出を奪い、家族、友人、恋人、会社等、ありとあらゆる人々のつながりを断とうとしている!」
「それをなぜお前がやってきて抗議しているのだ? 当人がやって来て個別に言いに来ればいいものを」
「皆を代表して戦うのが、正義の味方の役目だ」
「皆とは具体的に誰のことを指しているんだ? いいか? 記憶や思い出そのものに良いも悪いもない。たとえば虐待された記憶を食べてやれば、その者は他人を恐れなくなり、その分明日からの自由を手にすることができるんだぞ」
「それは屁理屈だ!」

 彼はバイクブーツの固い踵で、私の腹を蹴りつけてくる。「ぐげっ!」
 なぜか鳥の羽根のようなものがついたセンスの欠片もない首飾りを揺らしながら、私は転倒する。
「そのせいで子ども時代の記憶をなくし、友人や家族をなくした人々がいる!」
「いや、そんな虐めをするツレや家族なんていらないだろう?」
「それでも、かけがえのない友人であり、家族なのだ」
「ちょっお前、どっちが屁理屈なんだ?」
 彼はさすがに都合が悪いのか黙りこくり、身を引いた。
 これで大人しくなるのかと思って、私はほっと息をついたが、それもつかの間だった。
「変身!」
 彼は別に長くもない足を振り上げバイクのシートの上に立つと、体操選手のように姿勢よく飛び上がった。
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