第8話 虫愛づる姫?(四)

文字数 1,380文字

ちょっと確認させてもらいたいんだけど、

わたしって褒められてるの?

それとも、ディスられてるのかしら?

どっちなのよ、右馬の佐

あ、あの、この時代にない言葉をお使いになりませんように……。

それから、姫は先ほどから私のことを〈右馬の佐〉とお呼びになっていますが、〈右馬の佐〉は私の名ではありません。

私は源信頼(みなもとののぶより)と申します。

右馬の佐とは、右馬寮(うめりょう)の次官である私の役職名でございます…

あら、〈右馬の佐〉って呼んじゃだめなの? 。

わたしとしては、こっちのほうが好きよ。

なんかカッコいい馬の名前みたいでいいじゃない?

さ、さようでございますか。

まあ、姫がそうお呼びになりたいのなら構いませぬが…

じゃあ、引き続き〈右馬の佐〉って呼ぶわね。

……ところで、あんたさっき、わたしがこの世から外れているって言ったわよね。

そんなわたしと、いったい何をしたいの?

姫、わ、わわ、わたしと、こ、恋をしてくださいませぬか!

(い、言っちゃった……)

ふーん。右馬の佐くんは恋をしたいんだー

考えておくわ。

――ところで、さっきあんたが口にした僧正変態の歌のことだけど…

あ、あのー

僧正遍昭(へんじょう)です!

男の人は好きなのかもしれないけど、

あれ、女子的には単にキモいだから!

ええっ、そうなんですか?!
五節の舞っていうのは新嘗祭――つまり、その年の豊作を感謝して神に奉げる舞でしょ。

そんな神聖な舞をまう少女たちを、変態おじさんがすっごくいやらしい目で舐め回すように見てるわけじゃない?

――考えただけで虫唾が走るわ!

へ、変態おじさんって……
天に帰らせないってのは…

つまり、〈俺がお持ち帰りしたい〉って意味よ!

ま、まさかー?!
それで僧侶の身とかマジあり得ない。

死んでいいわ、あいつ。

あ、もう死んでるか…

僧正遍昭様は俗名良岑宗貞(よしみねのむねさだ)。

桓武帝の孫にして、六歌仙の御一人でもある筈ですが……

そんなの関係ないわ。

変態は変態乙女の敵決定。

わたし、ああいう肉欲の塊みたいな男の人って駄目なの。

――がつがつくる男は生理的に無理

わ、わかりました。気をつけます。

……そ、そうだ! 別に無理に話題を変えようという意図はありませんが、姫の傍らにある籠箱(こばこ)の中で、先ほどからかさかさ音がしているような気がするのですが……

……かさかさ⁇
ほ、ほら、この音でございます…
かさ、かさ…

かさかさ、かさかさかさ……

あ、もしかして…

〈けらを〉のことかしら?

け、けらを?
見せてあげるわ。

――ほら!

げッ、げげ!

げげげのげー!

何よ、まーた変身して…

あんたってほんとは馬太郎(めたろう)⁇

それを言うなら鬼●郎です!

あと、わかりにくいです!

……いや、そんなこたァどうでもいい!

とにかく、ななな、何なんですか、この見るだにむくつけき生き物は!

――ま、まさか地球外生命体?

馬鹿なこと言わないで。

これ、螻蛄(おけら)よ。

この子たぶん男の子だから、男(を)を付けて、〈けらを〉って呼んでるの。

かわいいでしょ!

他にも、こっちの籠箱は毛虫(かわむし)のおうちよ

け、毛虫ィいいい?! 

姫、あ、あなたはそんなもの、一体どこから捕まえてくるのです?

――わあッ、籠箱(こばこ)を私に近づけないで! 

や、やめてェええー!

…あんたの反応って、うちの女房たちと全く同じよ。

もうしっかりしなさい、右馬の佐。

男でしょ!(ため息)

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