第一話 僕が我慢する 【誰かのモノローグ】

文字数 1,001文字

やっと眠れるよ。
今日も沢山怒られたな。ちょっとの計算ミスだけで叩かれる。

お父さんがいなくなって一年くらいして、あの人が来た。
新しいお父さんだって、お母さんは言うけど、おかしいよね。
僕のお父さんは一人しかいないはずだもん。

僕のお父さんは、勉強で怒ったりはしなかったな。
お休みの時にはキャッチボールもしてくれた。
でも、お酒を飲んだら怖かった。
よくお母さんと喧嘩していた。
僕が学校でしてくる喧嘩なんかとは全然違って、物を投げたりする。
僕も何回かぶたれたことは、あったな。

それでお母さんは、お父さんとお別れすることに決めたんだって。
お父さんには、お母さんや僕よりも大事な人が出来たんだって言っていた。
本当かな? と思ったけど、
僕はお母さんと暮らすことに決められていたので、分かったふりをしたんだ。

お母さんの言うことを聞いて頑張ろうと思った。お手伝いも沢山しようと決めた。
でも、あの人がやってきた。

いろいろ気にかけて、話をしようとしてくれる。
これから長く一緒に住むんだろうな、って思うから、僕も逆らわない。

でも、ゲームの時間を減らせとか、勉強をいっぱいやりなさい、って言われるようになった。
五年生になったから、そうしなきゃいけないんだって。
回りの友達にもそんな子がいるから、間違ってはいないと思う。
でも、だからってしょっちゅう叩かなくてもいいじゃん? って思う。

お母さんは、叩かれても助けてくれない。
お父さんからぶたれたときは、泣きながらかばってくれたのに。

お母さんは、あの人の味方だ。
僕のためを思って、あの人が鍛えてくれているんだって。ほんとかな?

毎日夜遅くまで怒鳴られながら勉強するのは、面白くない。
分かった時は気持ちがいいけど、あんまり褒めてももらえない。
叩かれるのが怖いから、しっかりやるけど、
優しくしてくれる方が分かるんじゃないかな。

三年生の勉強とは違うんだろうけど、お父さんと勉強するときの方が楽しかったな。
お酒を飲まなければ全然怖くなくて、優しかった。

今何しているのかな? 別の家族が出来ているって本当なのかな?
会いたいな。

でもそんなこと、あの人にはもちろん、お母さんにも言えないや。
お母さんはあの人が来てから楽しそう。
僕のことは、あんまり気にしていないようにも思う。
でも、お母さんが楽しいのなら、僕が我慢すればいいんだ。

あ、もう一時が近い。起きているのがバレたら、やばいな。


おやすみなさい。

[了]
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