第二話 俺も我慢する 【誰かのモノローグ】

文字数 627文字

ああ。今日も怒っちゃった。
それだけじゃないよな。叩いちゃったよ。
ふうぅ。ごめんな。

でも、俺、同情もしているんだぜ。
急にやってきたおっさんに父親面される君に。
君が俺やお母さんに合わせてくれているのも、分かるつもりだ。
だって俺も、そんな子どもだったから。
だから君が、ものすごく良くやってくれているのも、分かるんだ。
寂しい気持ち、みじめな気持ち、分かるんだ。

俺は君の将来に責任を持つ。自分の子として育てる。
君のお母さんとも、固く約束した。
お母さんのご両親、君のおじいちゃんとおばあちゃんも、それで結婚を許してくれた。

だから俺が経験してきた人生と同じ、いや、それ以上の舞台を君に用意する。
そのために、今の厳しい特訓も必要なんだ。いつか、分かってくれると信じている。

でも、本当はちょっと怖い。
もし君に、妹や弟が出来たら、俺はどうなるんだろう?
今は、決して差別しないと誓っているけど、
先のことなんか、そんなに自信がある訳ない。
君の本棚にあった、豊臣秀吉みたいな偉人だって、ああなるんだ。

だから、というのは変だけど、君には生きる力をしっかりつけてあげたい。
そう、頑張ってほしいんだ。

そりゃあ、計算ミスが重なったくらいで叩く必要は、本当は無いのだけど……
君はあと少し、あと少しで上に行ける。もうちょっと、頑張れ。
それを俺が、後押しするんだ。

俺もできるだけ我慢する。
そして、お父さん、と自然に呼んでくれる日を待つ。
ああ、もうこんな時間か。
今夜も頑張ろう。我が息子よ。

[了]
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