文字数 1,287文字

 僕はLINEのグループに綾美が参加可能かを質問すると、リーダー格の大神さんから構わないとの許しを貰った。それから僕と綾美は同じ時間を過ごし、夕食のゆずの皮を入れた年越し蕎麦を食べて、集まりがあるBarに向かった。
 集まりがあるBarは商店街から少し離れた。閑静な住宅街と飲食店街がある場所との境目にあった。ガラス窓をはめ込んだ木のドアの向こうには深いウッドでまとめられたインテリアが広がり、八人が座れるカウンターと、奥に四人掛けと二人掛けのテーブルがそれぞれ一つあった。すでに僕以外の中の良いメンバー八人は集まっており、何時もの飲み会と変わらない雰囲気がアルコールの匂いと共に漂っていた。
「ああ、いらっしゃい」
 マスターの山口さんが僕を見て声を掛けたその向こうではマスターの従妹の松浦さんがおつまみの生ハムとチーズの用意をしていた。
「こんばんは。昔の友達を連れてきました」
 僕がそう言うと、隣に居た綾美は照れくさそうすこし頭を下げた。すると、僕と綾美に気付いていたリーダー格の大神さんがこう言った。
「よう、来たか。主役の登場を待っていたんだぞ」
 大神さんはすでに酒に濡れていて、表情も明るく上機嫌だった。十一月の終わりに職場の同僚である穂乃花さんと入籍して機嫌がいいのだろう。その穂乃花さんも大神さんの隣の席に座っていた。僕と綾美が空けられていた席に座ると、松浦さんがこう訊いてきた。
「何にします?」
「テキーラをロックで」
 僕はそう答えた。隣の綾美はコロナを頼んだ。
 各自の飲み物が僕と綾美に手渡されると、ここに来ることになっていた全員が集まったので、改めて乾杯の運びとなった。
「それじゃ、今年一年の感謝と今後の皆様の発展をお祈りして、乾杯」
 大神さんが音頭を取った。集まった僕達は持っているグラスを掲げて乾杯をした。いつも以上に楽しく華やかな空気が、店内にいつも以上に広がり満たされて行く。僕にとっては年中行事の一つでありもう慣れてしまったものだったが、こういうエネルギッシュな事から遠ざかっていた綾美には少し違和感を覚えてしまうかも知れない。
「隣の子が英司の友達?」
 大神さんの向こうの穂乃花さんが僕の向こうの綾美に質問する。コロナを少しだけ飲んでいた綾美は少したじろいで、不器用そうにこう答える。
「はい、昔西が丘にあるシェアハウスに住んでいました」
「そう」
 穂乃花さんはそう答えた。お酒が入ると異性にはあれこれ聞いてくる人だったが、同性に対しては違うようだった。
「あたしはこれからこっちと一つ屋根の下で暮らすんだ。共働きだけれどね」
 穂乃花さんの言葉に綾美は微笑で返した。伴侶になるべき人を失っていた綾美だが、気にしてはいないようだった。アルコールのお陰だろうか。
「ご結婚されたんですね、おめでとうございます」
 綾美は祝意のメッセージを送った。お酒を交わす親しい間柄が集まる場所で自分の不幸話をするのはいい事ではない。綾美はそれを理解して実行できるのだ。それは彼女が強くなった証だった。その事を僕は素直に嬉しく思った。

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