文字数 769文字

 大みそかの三十一日は午前中に最後の仕事を終えて、住んでいる祖師ヶ谷大蔵の家に向かった。駅前の中華屋でチャーハンの昼食を済ませ、アパートの部屋に戻ると、僕は書きかけの原稿を執筆する為にパソコンのワードを開いた。そして一時間程かけて原稿を書き進めると、傍らに置いていたスマートフォンがLINEの通知を知らせた。手に取って確認すると、年越しの為に地元のバーで集まるLINEグループの最終確認だった。僕は出席の返信を送ると、再びワードに向かった。やがてキーを叩く指が停まり、コーヒーでも飲もうかと考えていると、今度はスマートフォンがメールの着信を知らせた。
 僕は手に取ってそのメールを確認すると、この前東秩父村に会いに行った綾美からのメールだった。

「こんにちはお久しぶりです。この前はありがとう。今新宿に居ます」

 綾美から送られてきたメールは実に短くて簡素な物だった。僕は二か月ほど前に東秩父村で過ごし、彼女の中に残っていた様々な物を慰めてから戻った。それから綾美はあの美しく静かな場所で過ごすのだと思っていた。だがこんなせわしない暮れの東京に出てくるなんてどういう事だろうか。

「こんにちは。どうかしたの?」

 僕は慌ててメールを返す。程なくして再びメールが来た。

「なんだか一人でいるのがつらくなったから、小川町から電車に乗って池袋まで行って、そこから新宿に来ました。そっちに行ってもいいですか」

 メールに書かれていた綾美の信条と行動の内容は僕にとって突然すぎる内容だった。年神様が新年を迎える前に、綾美との関係をはっきりさせろとでも言っているのだろうか。

「いいよ。祖師ヶ谷大蔵まで来れる?」

 僕はそう返信した。すると間髪を入れずに「わかりました」という返事が届いた。僕は「駅に着いたら連絡を下さい」と答えた。
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