四(完)

文字数 594文字

 宴会は暫く続き、新年まで後三分という時間になった。松浦さんが「あと三分だよ」と告げると、最高潮に達していた宴のテンションが静まり、店に居た全員が壁に掛けられていたアナログ時計に注目する。口々に様々な事を言い合っていると、長針が移動して午前零時になった。そしてデジタル表示の日付が一月一日になって、新年の幕開けになった。僕達は酒の器を高く持ち上げて、新年のお祝いの言葉やこれからもよろしくといった言葉を口々にして酒を飲んだ。
 三十分程時間が経つと、僕と綾美は別れの言葉を言って店を出た。僕はテキーラを二杯ロックで飲み、綾美もコロナとハイネケンを一本づつ飲んでいたが上機嫌な様子だった。
「都会の酒場は、どうだった?」
 僕は綾美に質問した。深夜の空気は氷のように冷え切って酒で赤くなった僕の身体を容赦なく冷やしてゆく。
「たまには悪くない気がする。人間は何処かで他人との関係を求めているから、その欲求を満たせたと思う」
 綾美は答えた。そして側に居た僕に寄りかかり、こう続ける。
「こっちに来てよかった。新しい一年は凄く前向きになれそうな気がする」
「僕で良ければ、君の力になりたいよ」
 僕は答えた。目の前に移る景色は冷たい夜の闇と静寂に包まれていたが、時間が経てば温かい日差しが差し込んで周囲を明るく照らす。その中に綾美の微笑んだ表情があって欲しい。と僕は思った。


  (了)
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