三匹の罪豚

文字数 2,355文字

ポーク一族……ゆるせへん……。

我々ウルフ一族を絶滅まで追いやったポーク一族……。

ゆるせへん……ゆるせへん……。

 ウルフ一族の生き残り、アムネジア・ウルフは怒っていた。

 父を亡くし、母を亡くし、故郷の家を失くした。

 その目には自然、復讐の炎が爛々と燃えたぎった。

 アムネジアの中で燃える復讐の炎は、特にウルフ一族絶滅を掲げてポーク一族を扇動したポーク王家の兄弟へ向けられていた。

諸君! 我々は明朝キャット一族の討伐へ向かう!

誇り高きポーク一族の槍を掲げよ! 咆哮をあげよ!

過去虐げられてきたポーク一族の怨恨を果たすのだ!

よう吼えるわ……。

あれがポーク一族の王族、その長男。デイビッド・ポークや……。

ゆるせへん……。ゆるせへん……。

けどデイビッドは軍人や……。しかもそのトップと来とる……。

普段は城砦に籠もって外には出てけえへん……。

簡単には倒されへん……。

ブヒィ……。演説は疲れるわい。

しかし儂のカリスマで煽れば軍人は誰もがその通りに動く。

くく、こんなに面白いことはないわな。

日和った民族一つ程度、思うがままよ。

ホンマ下郎や……。ゆるせへん……。

今すぐにでも殺したい……でもまだや……。

デイビッド・ポークも所詮ポーク一族……。

その定めからは逃れられへん……。

ブフゥ……そろそろ水浴びの時間かのう。

演説のあとの水浴びこそ至高の時間。

戦果という果実を味わう前の一服よ。

愉快愉快。明日のキャット族討伐遠征に向けて胸が高まるというものよ。

そうや……ポーク一族には水浴びの習慣がある……。

そこが隙や……。兜も鎧も着てへん……。

そこをウチが開発したチーズ投擲機で狙い撃つ……!!

 アイルランドに語られる、アルスターの伝説。

 英傑クー・フーリンをも苦しめたコノートの女王メイヴ。

 その死因こそ、水浴び中にチーズを頭にぶつけられたことである。

 チーズ塊は一個数十キロにもなるが、日用品として入手が容易である。

 アムネジアは行商人に化けて城にチーズを運び込み、デイビッドの水浴びの時を待った。そして荷台に偽装した投擲機でデイビッドを狙える瞬間を待っていたのだ。

ゆるせへん……!!

デイビッドオオオオ!!! ゆるせへん!!!

おとん……やったで……。

次はポーク家次男、フィリップス・ポークや……。

 デイビッド・ポークは王族である。

 死んだとなればその報せはどんな駿馬よりも速く地を駆けるだろう。

 アムネジアは勝利の余韻もないままに走った。

 フィリップス・ポークとの「会談」の予定は既に取り付けてあったのである。

フン、客人があるというから来てみれば。

何だねキミは。もう随分昔に殺したウルフ一族じゃないか。

私は忙しいのだ。要件ははやく済ませてくれたまえ。

……フィリップス議員。

あんたは五年前に他種族絶滅を掲げて多種多様な種族を殺してきましたやんか……。

は。ははは、ははははは!

密談と言うから来てみればそんなことかね。

それの何が秘密だ? 私が掲げたマニフェストだよ、それは。

もともと不当に虐げられてきたのはポーク一族だ。

私はその復讐をしているに過ぎない。それはキミも同じことなのではないかね。

デイビッドの死は私の耳にも届いている。ウルフ一族の侵入があったこともな。

私も殺しに来たのだろうが、奇襲というのは二度通じるものではない。

覚えておきたまえ。

政治家になると話が長なるんか、フィリップス……。

ウチが言いたいのはそれだけやない……。

アンタはその裏で絶滅危惧種になった一族を拉致して人身売買に流してきましたやんか……。

選挙の権利者に隠れてラブホテルの経営もしてますやんか……。

そこを人身売買の舞台にしてはる……。

アンタがやってるのは復讐やない……。

ただ私腹を肥やそうとしとるだけや……。一緒にすな……。

ゆるせへん……フィリップス!! ゆるせへん!!

フン、まさに負け犬の遠吠えよな。

気が済んだなら帰りたまえ……いや、待てよ。お前女だろう?

ならばそうさな、お前も人身売買に流してやれば良い金になろう。

昨日今日絶滅したばかりの種族とは違う、ウルフ一族の生き残り。

毛並みも良い。きっと高く売れるぞ……。

はは、はははは……ぐっ!?
毒や……永遠に眠れやフィリップス……。

私腹は肥やせてもその意地汚さは治らんかったようやな……。

出されたものは何でも食らう、ポーク一族の性やな……。

これで復讐は終いや……。

三男の的場・ポーク・浩司はただの脛かじりや……。

兄がいてへんと何にもできへん……殺すほどやない……。

 所変わって、デイビッドの葬儀の準備が進む城砦には一つの電話がかかってきていた。
もしもし、城砦か? 俺や。的場・ポーク・浩司や。

なんでや! なんで今月の振込がないねん!


……デイビッド兄が死んだ?

アホ! なんでお前らがおって殺されとんねん! 何のための兵士や!

そのことフィリップス兄には伝えたんやろな?

……フィリップス兄まで死んだ!?


殺されたんか? 誰が殺したんや!?

……ウルフ一族の生き残りがいた?

なんでや……なんでまたポーク一族が殺されるんや……。
ゆるせへん……ウルフ一族……ゆるせへん……。
 アムネジア・ウルフの姿はその後歴史上から消えた。

 復讐鬼となった自らに耐えきれず自死を選んだか、的場・ポーク・浩司がその復讐を果たしたのか。

 人知れず生き延びて、的場・ポーク・浩司の復讐の牙から逃げ切ったのかもしれない。

 そうだとすれば、彼女の残りの人生は良心の呵責と伴にあったことだろう。

 後に的場・ポーク・浩司が語った御伽噺こそ昨今語られる三匹の子ぶたである。

 露骨に三男の的場・ポーク・浩司が利口に描かれているが、それが生存者の特権というものである。

 的場・ポーク・浩司はそれからもポーク一族にとって利口な末弟として語られるのであった。

 どっとはらい。

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