浦島太郎の邪智暴虐
文字数 1,448文字
浦島は鮮やかな手つきで罠を外し、亀を救って見せた。
亀はしきりに感心してその手さばきを見ていたが、何の事はない。
自分で作った罠である。当然、解除の手段もわかるというものである。
背に浦島を乗せて海中を進む亀。
その道程、すっかり寝こけてしまった浦島太郎は海中の風景を楽しむでもなく竜宮城へとたどり着いた。
亀は無理にでも起こすべきかと悩んだが、それに先んじて亀に近づく人影があった。
目を覚ました浦島太郎が見たのは、まさに化生である。
人型こそしているが、とても人間には見えない。
ヒラメやタイのウロコやヒレが肌を蝕み、ひらひらと振ってみせる右てのひらには魚眼と思われる黒い斑点がびっしりとくっついているのだった。
帰りの旅に出た浦島からは行きの呑気さなどまるで感じられなかった。
ブルブルと甲羅の上で震える浦島を見て、亀は申し訳ない事をしたなあとも考えたが、概ね自業自得であると思い直し、声をかけようとは考えなかった。
一瞬にして真っ白に老け込むほど驚いた浦島は、そのまま鶴になって何処かへ飛び去った。
変化の術は二度と人間には戻れない禁忌の術である。浦島だった鶴の行方は今はもう誰にも分からない。
どっとはらい。