浦島太郎の邪智暴虐

文字数 1,448文字

この辺りでは竜宮城に務める亀の姿が度々目撃されている…
竜宮城と言えば、地上にもその名の届く大豪邸!
それを助けた事にして恩を売れば働かずして大金を手に入れられるに違いない!!
…と思って罠を仕掛けるようになって早三年…仕送りも無くなり、いよいよ俺も働く時が来たのかなぁ…おや?
そこを行くお方! 助けてください!

何者かの仕掛けた罠にかかってしまったのです!!

これは可哀想な亀がいたものだ!

私でよければ助けてあげましょう!

 浦島は鮮やかな手つきで罠を外し、亀を救って見せた。

 亀はしきりに感心してその手さばきを見ていたが、何の事はない。

 自分で作った罠である。当然、解除の手段もわかるというものである。

いや、通りがかったのがあなたで助かりました。

実に見事な罠外しでした。本当にありがとうございました。

いや、当然のことをしたまでのこと。
では失礼します。親切に、ありがとうございました。
オホン!!
はい?
この辺りの亀は竜宮の使いと聞くが、助けた礼も出来ないとは。

主の格も知れると言うもの。

は?
わかるでしょう?
はあ……ならば竜宮城にお連れしましょう。大したお礼は出来ないかと思いますが。
あ、そう? 話わかるね、キミ。

くるしゅうないぞ。

はあ……。
 背に浦島を乗せて海中を進む亀。

 その道程、すっかり寝こけてしまった浦島太郎は海中の風景を楽しむでもなく竜宮城へとたどり着いた。

 亀は無理にでも起こすべきかと悩んだが、それに先んじて亀に近づく人影があった。

あれ、亀梨和也。おつかれー。

あれ? そちらのイケメンは?

はあ……乙姫様。そのあだ名やめてください。

私を罠から助けてくださったので、お礼の為に連れて参りました。

へえ! 亀梨和也にしては気が利くじゃん!

アタシもやぶさかじゃない、っていうかぁ。

寝てるみたいだけど、起こす?

はあ……まあ、そうしましょうかね。

お兄さん。着きましたよ。お望みの竜宮城ですよ。

あー? あー……。
亀梨和也を助けてくれたらしいじゃん?

ホント感謝っていうかさぁ。

は!? なにこの人間!?
 目を覚ました浦島太郎が見たのは、まさに化生である。

 人型こそしているが、とても人間には見えない。

 ヒラメやタイのウロコやヒレが肌を蝕み、ひらひらと振ってみせる右てのひらには魚眼と思われる黒い斑点がびっしりとくっついているのだった。

何でヒラメやタイに蝕まれてるの!?

何かの呪い!? 怪物か何か!?

それが竜宮の城主、乙姫様ですよ。
シクヨロ!
亀! いますぐ帰してくれ! 急いで!
はあ……お礼はよろしいのですか?
帰るの? ホントに?

じゃーこれ持って帰ってよ。お土産ってほどじゃないけどぉ。

はいはい! ありがとうありがとう!

早く出してくれ亀梨和也!

はあ……。
 帰りの旅に出た浦島からは行きの呑気さなどまるで感じられなかった。

 ブルブルと甲羅の上で震える浦島を見て、亀は申し訳ない事をしたなあとも考えたが、概ね自業自得であると思い直し、声をかけようとは考えなかった。

やっぱり、卑怯な手段なんか考えちゃダメだな……。

人間、真面目が一番だ、ウン。

まあ、お土産が貰えたのだけは良かったかな。

質に入れればいくらかの銭になるだろう。

どれ、中身を見てやろう。

お土産は私でーす! かわいがってね!!
うわあああああ!!

浦島流奥義! 変化の術!

 一瞬にして真っ白に老け込むほど驚いた浦島は、そのまま鶴になって何処かへ飛び去った。

 変化の術は二度と人間には戻れない禁忌の術である。浦島だった鶴の行方は今はもう誰にも分からない。

 どっとはらい。

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