桃札太郎

文字数 4,397文字

お前が桃太郎か……。
飛んで火に入る夏の虫というやつだが、その勇気に免じて名乗ろう。

我は黒鬼!

鬼の支配階級にして、鬼ヶ城の絶対君主。

鬼を統べる鬼の中の鬼、絶対悪たる悪の王とは我のことを言う!

「飛んで火に入る夏の虫(とんでひにいるなつのむし)」

明るいところに集まる習性のある夏の虫が、自ら火に飛び込んで命を落とすことから、自分から進んで災いに飛び込むことのたとえ。

例:「あいつホンマ飛んで火に入る夏の虫やなあ」

ああ、知っているとも!

俺は桃太郎! その悪を打ち倒すべく蜂起した民衆の希望!

いままで破った者のない黒鬼よ!

誰もが諦めた悪逆の打倒を俺が果たす!

我より古を作す! さあ、桃札決闘だ! 黒鬼!

「我より古を作す(われよりいにしえをなす)」

昔のやり方やしきたりに囚われずに新しい方法を考え出して、後世の規範・手本とすること。自分から模範となる例を作り出すことを言う。

例:「彼、我より古を作すって言い出して話をきかないのよ。あなたからもなにか言ってよ」

……応ッ!

遊戯であれば、我にも嗜みがある。桃札決闘であれ、我が遅れを取ることはないと知れ。

いざ、決闘!

 両者、睨み合いながらも懐から札束を取り出して掲げた。

 それが桃太郎が編み上げた決戦礼法、桃札決闘である。

 桃太郎はそもそも、桃から生まれた時に決闘となれば相手も自分も逃げ出すことが出来ないという呪いを背負って生まれた。桃太郎は挑まれた戦いから逃げ出すことが出来ず、負けは即、死を意味する。これを退けずの呪いという。

 しかし、その呪いは相手も同じことである。つまり、桃太郎から挑まれた勝負において相手は逃げることが許されない。

 これを利用して、腕力では敵わない相手も、知略で及ばない敵も、同じ決闘の場に引きずり下ろす。札遊戯という戦いを真剣勝負と同じ扱いに格上げする。それこそが桃札決闘の本懐である。

我から行くぞ!

我は手札から赤鬼一号を喚ぶ!

そして札を二枚伏せて終了だ。先手は攻撃出来ないからな……さあ、桃太郎。お前の番だぞ。

鬼手札:二枚

 伏せ:二枚

  場:赤鬼一号 攻撃1500/守備800

ライフ:5000

俺の番だ! 札を一枚引くぞ!
桃太郎

 手札:六枚

(二枚の伏せ……如何な罠とも知れないが、この手札なら攻められる。

 幸い、赤鬼一号は凡庸なモンスター。倒すことは可能だ!)

俺は桃源郷の誓僕タロウを召喚!

桃源郷の誓僕タロウの攻撃力は1700! 赤鬼一号の1500より上だ!

桃源郷の誓僕タロウ赤鬼一号を攻撃!

この時、我の伏せた罠がその効果を顕す!

鎧袖一触! と名のつくモンスターが戦闘をする際、計算を行わずにそのモンスターを破壊する!

そして桃太郎、お前は赤鬼一号の攻撃力と同じだけのダメージを受ける!

「鎧袖一触(がいしゅういっしょく)」

鎧の袖で触れた程度の軽い力で敵を打ち負かすこと。

相手をたやすく打ち倒してしまうことのたとえ。

例:「ぼくもいつか、鎧袖一触な大人になりたいな!」

く……!
桃太郎のライフ:5000→3500
だがこの時、手札から忍の一字は衆妙の門の効果が発動する!

自分が1500以上のダメージを受けた時、1000ダメージにつき一枚ドローする!

この効果は次の俺のターンまで継続する!

黒鬼さんよ、迂闊に攻めれば俺の手札が増えていくぜ?

「忍の一字は衆妙の門(にんのいちじはしゅみょうのもん)」

忍耐は成功のもとであるということ。「衆妙の門」はあらゆる優れた道理の入り口のことを指す。

例:「忍の一字は衆妙の門って言ったって、限度があるよ……」

更に、手札でと名のつく魔法カードが発動した時、手札から桃源郷の誓僕シャーロットを召喚出来る!

シャーロットは攻撃力は低いが、守備力が高い!

そう簡単にこの鉄壁の護りを抜くことは出来ないぜ!

俺はカードを三枚伏せて、ターンエンド!
桃太郎

 手札:一枚

 伏せ:三枚

  場:桃源郷の誓僕シャーロット 攻撃200/守備3000

ライフ:3500

攻められればドロー出来るのに鉄壁のモンスター出したら意味なくない?
……戦略のうちですから。
まあ良い、我のターンだ。一枚ドロー。

我は青鬼二号を召喚。更に伏せから罠カード悪縁契り深しを発動する!

「悪縁契り深し(あくえんちぎりふかし)」

良くない縁に限って結びつくが強くて、離れがたいさま。

例:「悪縁契り深しやぞ! 分かっとんのか!」

赤鬼一号青鬼二号を素材に融合召喚!

業煮え滾る彼岸の門より豪腕震わせて今こそ発せよ!

現われろ! 彼岸の豪鬼シュテン

こ、攻撃力3500……!
更に手札から鬼に金棒を発動! フィールドの全てのと名のつくモンスターの攻撃力を倍にする!

そしてシュテンは守備モンスターを攻撃した時、守備力を超えた分のダメージを相手に与える!

桃源郷の誓僕シャーロットの守備力は3000! 攻撃力7000となったシュテンの攻撃は防げない!

まさに烈風枯葉を掃うだな!

消し炭になれ! 桃太郎!

「烈風枯葉を掃う(れっぷうこようをはらう)」

激しい風が枯葉を吹き飛ばすように、劣勢の相手を簡単に打ち負かすことのたとえ。

例:「アイツはホント烈風枯葉を掃うことしか能がないな」

……それはどうかな?
俺は鬼の目にも涙を発動!

と名のつく魔法・罠カードの効果を無効にし、破壊する!

更に行き掛けの駄賃を発動!

このターン、自分が罠カードを発動する度に発動する! カードを一枚ドロー出来る!

俺は一枚ドロー!

「鬼の目にも涙(おにのめにもなみだ)」

冷酷で無慈悲なものでも、時には同情や憐れみを抱いて涙を流すこともあるということ。

例:「君のような人でもこの気持ちが分かりますか。鬼の目にも涙、というわけですね」

「行き掛けの駄賃(ゆきがけのだちん)」

昔の運送業者が荷物を運ぶついでによその荷物なども運んで駄賃を稼いだことから、用事をするついでに他のことをすることを言う。

例:「カップラーメンに湯を入れる行き掛けの駄賃にコーヒーを淹れたんだけど、飲む?」

ぬ、攻めきれぬか……。

我は一枚伏せて、ターンを終了する。

 手札:一枚

 伏せ:一枚

  場:彼岸の豪鬼シュテン 攻撃3500/守備2000

ライフ:5000

お前のターン終了時に発動するぜ!

氷は水より出でて水より寒し

桃源郷の誓僕シャーロットをリリースし、デッキから桃源郷の誓僕パラヴァニを召喚!

パラヴァニはその攻撃力と引き換えに、フィールドにある限り、お互いのターン終了時に俺のライフに1500のダメージを与える!

これにより、忍の一字は衆妙の門の効果で一枚ドロー!

行き掛けの駄賃で更にもう一枚ドローだ!

「氷は水より出でて水より寒し(こおりはみずよりいでてみずよりもさむし)」

弟子が師匠よりも優れていることのたとえ。青は藍より出でて藍より青しとも。

例:「師匠には悪いが、おれは氷は水より出でて水よりも寒しってやつだな! ガハハ!」

そして俺のターンだ! ドロー!
桃太郎

 手札:五枚

 伏せ:無し

  場:桃源郷の誓僕パラヴァニ 攻撃4000/守備0

ライフ:2000

我の罠を発動する! 彼岸の門

手札を一枚捨て、貴様のカードを一枚破壊する!

破壊するのはもちろんパラヴァニだ!

攻撃力4000を放ってはおけないからな!

くっ……だがまだだ!

俺は手札から異伝・御伽ノ国ノ物語を発動する!

墓地に桃源郷の誓僕と名のつくモンスターが三種類揃っている時、手札から御伽ノ国と名のつくモンスターを召喚できる!

異なる世界、異なる幻想に根ざした物語がここに紡がれる!

天知る地知る人知る者よ、されど光は海には届かず!

爆流踊る深海よりその姿を現せ!

御伽ノ国ノ姫君・乙姫
タイもヒラメもアタシの一部! さあ、頑張って踊りましょう!

……っていうか、鬼なんて鎧袖一触じゃん?

鎧袖一触はさっき鬼が使ったので使わないでください。

……御伽ノ国ノ姫君・乙姫の効果発動!

御伽ノ国ノ従僕・亀梨和也トークンを召喚する!

はあ、こちらの世界でもその名前なんですね……。

なんというか、諦めの境地です、最近。

異なる世界からのモンスターだと?

そんなカードOKなの? どのパック買えば当たるかあとで教えてくれない?

フフ、お前に次カードショップに行く機会など来ない!

亀梨和也トークンは相手のフィールドの一番高い攻撃力のモンスターと攻撃力が同じになるぞ!

どっちが悪役かわからなくなってきたわね。
人の振り見て我が振り直せですよ、姫様。
「人の振り見て我が振り直せ(ひとのふりみてわがふりなおせ)」

他人の行いの善悪を見て、自分の行いを見つめ直し、改めよとの教え。

人間は自分で自分の欠点には中々気づけないのでこういうことが言われる。

例:「注釈が多い文章は嫌われるものね。人の振り見て我が振り直せってことかしら」

いくぞ! 亀梨和也トークン彼岸の豪鬼シュテンに攻撃!

攻撃力が同じモンスター同士の戦闘は相打ちだ! お互いに破壊される!

そして御伽ノ国ノ姫君・乙姫でダイレクトアタック!

では、お先に失礼しますよ、姫様。
くっ……!

しかし、お前のフィールドのモンスターは乙姫だけ!

乙姫の攻撃力は2500だ! まだ俺を殺し切ることは出来ない!

ああ、そうだな。

だがお前のフィールドにも手札にもカードは無い。

せいぜい、一枚に祈りを賭けると良い。

或いはこの桃太郎を倒すに至るかも知れんぞ。

力を貸すと約束したはいいけど、正直この桃太郎に救世主になって欲しくないわね。

無茶苦茶言い出すわよきっと。

アタシ、そういう奴結構見てきたから分かるし。

俺は手札を全て伏せて、ターンエンドだ!
桃太郎

 手札:無し

 伏せ:三枚

  場:御伽ノ国ノ姫君・乙姫 攻撃2500/守備2000

ライフ:2000

 手札:無し

 伏せ:無し

ライフ:2500

この一枚に全てを賭ける……!

逆転のカード……墓地に闇属性のモンスターが三枚いる時に特殊召喚出来る、あのカードを……!

ドロー!!
降参します。ありがとうございました。いい決闘でした。
 桃太郎の働きにより、世間に暗雲を落としていた黒鬼は除かれた。

 黒鬼の蓄えていた金銀財宝を私物とし、鬼ヶ城の新城主となった桃太郎は、黒鬼に代わって次第に人々を苦しめるようになっていった。

 民衆にとっての目の上の瘤となった桃太郎は、ある時、奇襲に近い形で勝負を挑まれ、退けずの呪いによって呆気なく討滅されてしまった。

 乙姫の予言は正しかったと言えるだろう。

 かくして、力の均衡を脅かす強大な存在は消えた。しかし、桃太郎が残した桃札決闘のみは世に残り、子どもから大人までを魅了したという。桃札の製造元であるお爺さんとお婆さんはその収益で幸せに暮らしましたとさ。

「目の上の瘤(めのうえのこぶ)」

邪魔なもの、鬱陶しいもののこと。

特に、自分より目上の人や力が強い人に対して言われる。

例:「この桃太郎のように、威張り散らして目の上の瘤だなどとは言われないように育ってくださいね」

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