恋を叶える人魚姫
文字数 3,598文字
しかし、彼女の恋は今回も叶わなかった。
王子の隣国への旅行を止めることが出来ず、前回と同じように彼女と同じ顔を持った隣国の姫に王子の気持ちを奪われてしまったのであった。
人魚姫は門側の窓を開いて、入ってくる隣国の姫を一目見ようと目を凝らした。
伝聞に自分と似ている、しかも溺れた王子を救った女性と話には聞いていたが、実際に目にしたことはなかったのである。
やがて現れたその顔に人魚姫は驚いた。
自分がいたはずの部屋を見上げる人魚姫。
そこには当たり前のように彼女自身がいた。
驚愕の表情はどちらのものか。どちらの人魚姫が驚いているのか判別出来ない一瞬。
しかし、その均衡が保たれたのは一瞬である。隣国の姫に化けた彼女はいち早く事態を察知した。
ドヤああああああッ!!
魔法使いの姿は消えた。同時に、人魚姫の意識も隣国の姫に吸い寄せられていく。
彼女は姫として何度も殺された。
彼女が殺される度、罪を負った人魚姫が誕生する。けれど、交代は許されない。罪を負った人魚姫とは、すなわち彼女のことだからだ。
新しい人魚姫が罪を犯す度、その罪は彼女のものになっていった。人を殺したという後悔と、殺される苦痛とが何度も彼女の身を焼いた。
その終わらない巡礼の中、彼女は「ああ、結局私はまた、魔法使いに騙されたのだわ」と責任転嫁を続けるのだった。
とっぴんぱらりの、ぷう。