(四)-5(了)

文字数 381文字

 今まで自宅のテーブルの上などで置きっ放しにされたハンドバッグの中からテレビやラジオを見聞きしていたから、俺でも知っている。彼女と似たような境遇の女性は決して少なくない。陥ったらなかなか抜け出せない貧困。彼女たち自身もどうしたら良いかわからないケースが多い。そのうえ、子どもがいればなおさらだ。本人たちは最善を尽くしてもがき続ける。しかしもがけどももがけども、そこからは抜け出せない。
 必死にもがき続けた結果、人によっては、あるとき一線を超えて罪を犯してしまう。
 そして罪を犯すと法で裁かれる。法の執行は正義だ。しかしその正義は、罪を犯す境遇へ彼女たちを追いやったそもそもの原因については無関心だ。それはまるで貧しい者の存在そのものに、裁判という蓋をしてしまうかのように。
 そして今、彼女は被告席のデスクに突っ伏し、子どものように、大声を上げて泣いていた。

(了)
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