第3話 迷い

文字数 1,001文字

吃音やどもりという単語は知らなかったが、吃音を自覚し始めている自分もいた。しかし、誰に相談するべきかわからず、家族や友達に言うのは少し気が引けたので、心の内に秘めておいた。

今日の放課後はみんなで探偵をした。簡単に言うと、探偵とは探偵と盗人に分かれ、探偵が盗人を捕まえる遊びだ。住んでいる地区によってルールは多少異なるが、僕の地区では探偵に背中を3回タッチされれば盗人が牢屋に入れられるということになっていた。

探偵と盗人は『いろはにほへとちりぬ、るをわかよた』で決める。僕は今まで『いろはにほへと』を読む役をしていたがこの日は他の人に任せた。

僕は盗人になった。探偵は5分後から捕まえに来るので僕達盗人は必死に逃げた。僕は親友の優也と一緒になって逃げた。

僕と優也のコンビネーションは最強でいつも最後まで捕まることはなかった。それはというと、2人で一緒に行動し、アイコンタクトやこそこそ話で探偵の位置を速やかに判断し、絶妙なタイミングで隠れ場所を変えていたからだ。

この日もいつもの作戦で行くつもりだった。僕は右方向、優也は左方向それぞれを監視していた。僕は探偵がこっちに向かってくるのに気づき場所を変えるよう指示しようとした。しかし、声が出ず、優也の肩を軽く叩きアイコンタクトで伝えた。

この日の探偵でも僕達は最後まで生き残ることができた。やはりコンビネーションは抜群だ。

家に帰る途中、頭の中で自分と対話をしていた。対話の内容は無限ループのように同じ内容を自分に問いかける。

(どうしてなんだろう?)

ただそれだけが頭の中で繰り返された。以前までは話す事が大好きだった。ひっきりなしに話す僕に、皆がうるさいと注意するほどだった。しかし、今では話す事を躊躇っている。発声が上手くいくか否かが毎回頭をよぎり、会話することでさえ一苦労だ。

家に着きただいまの言葉すら言わず玄関をくぐった。

『あら、お帰り』

『・・ただいま』

『ご飯できてるで。手洗ってき』

『はーい』

僕は手を洗いながら鏡に映る自分を見ていた。外見はいつも通りだ。なんの変化もない。外で遊んでばかりいたため、日焼けした少年がそこには写し出されていた。

しかし、心の中は変わっていただろう。真っ暗とまではいかないが、薄暗い状態にはなっていたはずだ。

どうしたんだろう、僕・・

日に日に強く感じていた。
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