第34話 出会いの始まり

文字数 656文字

「菅原悠斗君の恋人の、大久保明日香さんですね」
 私の念押しに、彼女は戸惑いを全身から(にじ)ませながらも、はいと頷いた。そして、なぜ、と唇が動く。

 私はどこを示すでもなく、片手を横に上げた。
「ここが地蔵公園です」

「はい」彼女は頷いた。
「ここは、

います。もう長いこと来てませんでしたけど、子供の頃に父や母と遊びました。でも、なぜあたしの名前を?」
「答えは後から出しましょう」私は微笑んだ。

「そうですか……あ、お店も変わらないんですね。幼い頃のままです。でも、お地蔵様があるのは知りませんでした。地蔵公園って呼んでたにもかかわらず」彼女は恥ずかしそうに少し笑った。

「海も?」
「はい、よく遊びました。遠浅できれいですから」



 今日、二人にすべてを話そうと決めた。二人でなら、この丘の守り人を引き受けやすいのではないかと考えたから。

 まさにこの世のものとは思えぬ一日の始まりを告げる朝焼けと、空を焦がす夕焼けと、雨上がりの大きな虹を二人で気のすむまで眺めればいい。

 木々を吹き渡る風を体で感じながら、言いそびれた言葉で悔やまぬように、些細な後悔も抱えぬように、ふたりの体温を伝えあえばいい。

 そして、多くの人たちを見送った後、違う守り人に見送られながら更なるあの世へ旅立てばよい。

 彼女の濁りのない目を見つめながら都合のいいことを考えたとき、視界の端に動くものを捉えた。
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