第4話

文字数 935文字

「他にもきっと良いとこあります! 目だけじゃないですよね? ね?」

 自分の良いところを直ぐに自信もって言えないそれは日本人の奥ゆかしさ、にしておこう。それに視野やDVA 動体視力と深視力は必要な能力だ。私には目の運動を行うルーティンがある。そのおかげだ。


 一般的に人間の視野角度は左右に200度、上下で130度程度と言われていて、私は他人よりちょとだけ広く見えている……気がします。
 深視力は空間把握に直結する。

 因みにDVA 動体視力とは横方向の動きを識別する能力(* サッカーなど横からのボールや相手の動きを眼で追う)で、KVA 動体視力は前後方向の動きを識別する能力(* ピッチャーから投げられてくるボールを見る)。八千はこのKVA 動体視力がズバ抜けている。



 アイルトン・セナはホームストレートの観客の前を時速400キロで通過したとき、『観客の一人がウインクした』と言ったそうな。



「いた! 睦美の方に行きました!」

 微かな蚊の残影らしき飛行体を、部屋全体を見るような大きな視界の中に捉えた私がそう言い終わったかどうかの瞬間、睦美がスイングした。 何? 何がおきたの? 

「……(やっ)た~」

 そう言って差し出された睦美の掌には潰れた蚊が……。それって可能なんですの? 両手や壁などで挟み潰すことなく、片手の衝撃だけで蚊って圧っせるの?

 それにしても、ものすごい反射……これこそが睦美が攻撃特化の証、彼女は目の前に来たものを反射的にアタックできるという、変わった性癖の持ち主であった。



「もういい、帰ろ帰ろ」
「う~……誰も誉めてくれない~」

 八千が部室の扉を開けると、またもや私の視界の端を何かがかすめた。そしてそれは靴を履くために屈んだ私の上を通り抜けた。だから、得てしてそれを私が避けた形となった。

 私の後ろには睦美がいる。またしても睦美が問答無用に腕を振る。


 バシッ!!!


 何かが部室の壁に叩きつけられた。私たちは何が起きたか分からないでいる。叩きつけられた何か、を八千が確認する。

「ひ、ひぃぃぃぃッ」

 その悲鳴に私もゆっくりと目を向ける……カナブンだ……無残なカナブン……。


「うーん……手に何かネチョッとした変な液付いてる~……」

 虫も殺さぬ可愛い顔が逆に怖い……。
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