第1話 勉強よりバレーボールの方が難しい

文字数 1,749文字

『勉強よりバレーボールの方が難しい』

 勉強には必ず答えが存在する。どんなに難問でも解説を読んで理解できなかったことはない、しかし……。
 バレーボールには答えが明確にない。最高のトスを上げても、アタッカーが最高のスパイクを打つとは限らない。最強のスパイクが炸裂したとしても、それが必ずコートに叩き込まれることは確定ではない。ラインを割ってしまうかもしれなければファインレシーブだってある。
 この角度で打てば決まる、などという立証もされていない。



『高校女子バレーのネットの高さは2メートル20センチ。バックアタックを打った場合ネットからアタックラインは3メートル離れている。
 仮に打点が300センチでアタックラインから1メートル前に飛んで打ったとしたら、守る側のコート(縦9メートル×横9メートル)にはネットより縦約5メートル内には理屈的に着地しない』

菜々巳(ななみ)、今そんなこと考えてたでしょ?!」

 そう言って後ろから驚かす様にいきなり声を掛けてくる。彼女は私と同じ柏大手高校、通称『柏手高校』バレー部一年、高坂八千(こうさかやち)。ポジション、リベロ(* 守備特化のポジション)。
 身長162センチ、ショートカット、明るい性格。学校の成績(テスト)は赤点多。窪んだウエストに引き締まったふくらはぎ、スタイルは良い。運動神経は抜群、悩みは無さそう。
 授業と授業の間の業間休みは、耐えに耐えた授業中のストレス発散のため騒がしい。その中でも八千の声は一際大きい。
 勉強嫌いの彼女にとって、この業間休みは長く潜った後の息次の時間と思われる。

「ね、またバレーでは100点取れない、とか悩んでる感じ?」

 完全にバカにしてる口調なのが分かる。しかし中学からこの高校1年1学期までの成績で『5』以外の評価を見たことのない私にとって、所詮負け犬の遠吠えにしか聞こえない。
 確かに思考は見抜かれたが、得意の笑顔で誤魔化す(スマイルスルー)で返事もしなければ、相手にもしないわ。オマケのお返しで憐みの視線をプレゼントするわ、あなたにお似合いよ、ふふっ。

「バレーはね、菜々巳、25点でも赤点どころか勝ちよ勝ち。ずっとデュースしたって35点で終わり、ね、菜々巳、バレーに100点なんてないのよ」
「……やっぱり馬鹿にしてます?! よね……」

 ポニーテールと言うには少し低い位置で一つ結びしている髪を振ると八千から背け、膨れて見せる。

 私は開菜々巳(かいななみ)バレー部1年、171センチ。ポジション、セッター(* アタッカー(攻撃)へのトス(パス)を上げるセットアッパー。司令塔)。勉強よりも恋愛よりもバレーボールが好き。
 笑顔が愛くるしいと言われたりして……ると自惚れてみたり。悩み多きJK。


 そして同じ高校にもう一人、隣のクラスの皆藤睦美(かいどうむつみ)も八千と共に小学校来の付き合いです。身長180センチ、左利き。顔面偏差値75の美少女。語尾を伸ばす特徴ある話し方の天然ちゃん。おっとりしてそうだけど芯がある。ポジション、オポジット(* 攻撃特化ポジション)。中学の最初まではミドルブロッカー(* ブロックとセンターからの速攻攻撃が軸)。悩みは皆無に見えますね。
 共通点は3人とも寝るのが好きで、朝が強くないってこと。

 共通点はもう一つ……

 私たちは地元バレーボールクラブの名門、東洋アローズから縁が繋がっていて、それは8人(・・)のバレー仲間だ。



 //////ミニ解説コーナー//////

菜々巳 「バレーのポジションについて」
八千 「以前はレフト=エースでレフト対角が裏エースって感じだったよね」
菜々巳 「呼び方もレフト・センター・セッター・バックライト(レフト対角)
    とかでしたね」
八千 「今はアウトサイドヒッター・ミドルブロッカー・セッター……」
菜々巳 「リベロ、オポジット、ウィングスパイカーなんてのも」
八千  「ウイングスパイカー=アウトサイドヒッター=レフトorライト、セ
    ンター=ミドルブロッカーって思って良いのよね」
菜々巳 「野球と違ってポジション名は役割名で守備位置ではないんですよ」
八千  「バレーにはローテーション(得点するごとに時計回りにポジション
    移動)があるんだよね」
菜々巳 「試合での各役割がありながら守備位置を変えることがバレーの難し
    さでもあるんです!」
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