はじめましての1週目。
文字数 2,239文字
小さい頃は、絵本に登場するお姫様に憧れた。
お城から招待状を受け取った女の子は、舞踏会で運命の相手と素敵な出会いを果たすのだ。
私の手元に届けられた、十枚のチケット。
これが運命の相手と出会える招待状だと信じて――
私は、新幹線のホームへ続く道を急いだ。
*
改札口を出ると、異なる制服に身を包んだ男女五人の集団が視界に入る。
中でも一際派手な女の子が、「こっちこっち!」と私に向かって手を振った。
「初めまして、私は高野凛々。りりころって呼んで」
「早川陽毬です」
「ひまりねっ! よろしく!」
時間に余裕を持って到着するつもりだったけれど、どうやら私が最後だったらしい。
待たせてしまったことを詫びると、向かいに立つ男の子がにっと白い歯を見せた。
「俺らもさっき来たとこやし気にせんでええって。それよりバス、もう来てるみたいやし早速行きますか!」
「うん! しゅっぱーつ!」
ノリの良いりりころと関西弁の男子が先導するようにして歩き出す。
今日から始まる新たな出会いに希望を膨らませながら、私も彼らの背中を追った。
*
振り返ること、四ヶ月前。
高校の卒業式で、私は好きだった先輩に振られてしまった。
「もう、ひまり! いつまで泣いてんの」
教室で俯く私に親友が差し出したのは、同情の言葉でもハンカチでもなく――
『恋ステ・参加者募集!』と表示されたスマホの画面だった。
「ひまり、私たちは絵本の中のお姫様じゃないんだよ。舞踏会の招待状なんて待ってても来ないんだから、自分の足で動くしかない」
あれは親友なりの慰め方だったのだと、今なら分かる。
失恋を引きずるくらいなら新たな恋を見つけに行けと、彼女は言いたかったのだろう。
恋する❤︎週末ホームステイ、通称『恋ステ』。
全国の高校生の男女が、週末の旅を通して恋を育む企画。
「とりあえず応募してみなって!」と勧められるがままに応募した結果、なぜか合格してしまい――今に至る。
私が選ばれた理由は、未だに謎のままだった。
*
バスに乗って到着した先は、森林公園の中にあるバーベキュー場だった。
手分けして焼いた食材が各自の皿に行き渡ったところで、りりころが「注目~」と手を上げる。
「皆、さっそく自己紹介しよう! 私はりりころ。生まれも育ちも名古屋でーす。ちなみに今年入学したばっかの高校一年生!」
得意げに片目をつぶる彼女に、一同がどよめいた。
「嘘やん。見た目ギャルやし絶対サバ読んでるやろ。居酒屋行っても年確されなそう」
「は!? まだ16歳だし!」
瞳をきっと吊り上げるりりころの様子を楽しそうに眺めながら、隣の男子が「はるとです」と微笑む。
「宮城の高二。休日は古着屋でバイトしてます」
シャツの袖から覗くブレスレットや、ふんわりとパーマがかかった髪型からおしゃれに気を使っている印象を受ける。全身から醸し出される穏やかな雰囲気は、『先輩』によく似ていた。
「じゃあ、私は……」
言いかけたツインテールの女の子を、「知っとるわ」と関西弁男子が遮る。
「ゆーちゃやろ? この前も自撮りバズっとったやん」
「え?」
きょとんとする私を前に、ゆーちゃは「えへへ」と照れ笑いを浮かべた。
「私、『エイティーン』って雑誌のモデルなの」
「すごい……!」
有名人と知り合うのは生まれて始めてかもしれない。
文字通り非の打ちどころのないルックスを備えた彼女は「よろしくね」とぺこりと頭を下げた。
「んじゃ、俺やな」
野菜にソースをかけながら、関西弁男子が話し始める。
「藤橋新、高三で実家は大阪。軽音楽部で去年は『バンスタ』に出たで」
「すごいね! それ、軽音の甲子園みたいなやつでしょ?」
歓声を上げるゆーちゃに、あらたは「まあな〜」と得意げに笑って見せた。
「んで、あんたは……かけるやったな」
あらたに振られたかけるは、「ああ」と静かに頷く。
「汐里翔、沖縄出身の高二。サーフィンが趣味だ」
「だからそんなにええ身体しとるんやなあ」
かけるは口数は少ないものの、体格は他の二人と比べて一回り大きかった。
あらたに褒められ、かけるは少しだけ困ったように瞳を伏せる。
「こう言う場は初めてなんだ。慣れてなくてすまない」
「いいんだって! これからよろしくね」
明るい声でかけるを慰めたりりころは「最後は……」と、好奇心に満ちた瞳をこちらへ向けた。
「ひまりも高二だったよね。どこから来たの? 趣味は? 部活は?」
次々と質問をされ、私は「えっと」と慌てて言葉を紡ぐ。
「出身は香川。地元はすごく田舎だし、所属してる放送部の活動も緩いんだ。でも……面接で『散歩が趣味』って言ったら、なんか合格しちゃって」
「ぶっ」
向かいに座っていたはるとが、飲んでいたジュースを噴き出しそうになる。
「散歩って。それうちのばあちゃんの趣味だよ」
「そ、そうだよね。でも本当に海岸とか歩くのが好きで」
「傑作。俺が面接官でも合格出すと思う」
はるとの言葉に、わっとテーブルが盛り上がる。
(……こ、こんな自己紹介でいいのかな)
期待していた展開とは異なる幕開けになってしまったものの――
明るい笑顔を浮かべるメンバーを前に、楽しい旅になりそうな予感が私の胸を弾ませた。
お城から招待状を受け取った女の子は、舞踏会で運命の相手と素敵な出会いを果たすのだ。
私の手元に届けられた、十枚のチケット。
これが運命の相手と出会える招待状だと信じて――
私は、新幹線のホームへ続く道を急いだ。
*
改札口を出ると、異なる制服に身を包んだ男女五人の集団が視界に入る。
中でも一際派手な女の子が、「こっちこっち!」と私に向かって手を振った。
「初めまして、私は高野凛々。りりころって呼んで」
「早川陽毬です」
「ひまりねっ! よろしく!」
時間に余裕を持って到着するつもりだったけれど、どうやら私が最後だったらしい。
待たせてしまったことを詫びると、向かいに立つ男の子がにっと白い歯を見せた。
「俺らもさっき来たとこやし気にせんでええって。それよりバス、もう来てるみたいやし早速行きますか!」
「うん! しゅっぱーつ!」
ノリの良いりりころと関西弁の男子が先導するようにして歩き出す。
今日から始まる新たな出会いに希望を膨らませながら、私も彼らの背中を追った。
*
振り返ること、四ヶ月前。
高校の卒業式で、私は好きだった先輩に振られてしまった。
「もう、ひまり! いつまで泣いてんの」
教室で俯く私に親友が差し出したのは、同情の言葉でもハンカチでもなく――
『恋ステ・参加者募集!』と表示されたスマホの画面だった。
「ひまり、私たちは絵本の中のお姫様じゃないんだよ。舞踏会の招待状なんて待ってても来ないんだから、自分の足で動くしかない」
あれは親友なりの慰め方だったのだと、今なら分かる。
失恋を引きずるくらいなら新たな恋を見つけに行けと、彼女は言いたかったのだろう。
恋する❤︎週末ホームステイ、通称『恋ステ』。
全国の高校生の男女が、週末の旅を通して恋を育む企画。
「とりあえず応募してみなって!」と勧められるがままに応募した結果、なぜか合格してしまい――今に至る。
私が選ばれた理由は、未だに謎のままだった。
*
バスに乗って到着した先は、森林公園の中にあるバーベキュー場だった。
手分けして焼いた食材が各自の皿に行き渡ったところで、りりころが「注目~」と手を上げる。
「皆、さっそく自己紹介しよう! 私はりりころ。生まれも育ちも名古屋でーす。ちなみに今年入学したばっかの高校一年生!」
得意げに片目をつぶる彼女に、一同がどよめいた。
「嘘やん。見た目ギャルやし絶対サバ読んでるやろ。居酒屋行っても年確されなそう」
「は!? まだ16歳だし!」
瞳をきっと吊り上げるりりころの様子を楽しそうに眺めながら、隣の男子が「はるとです」と微笑む。
「宮城の高二。休日は古着屋でバイトしてます」
シャツの袖から覗くブレスレットや、ふんわりとパーマがかかった髪型からおしゃれに気を使っている印象を受ける。全身から醸し出される穏やかな雰囲気は、『先輩』によく似ていた。
「じゃあ、私は……」
言いかけたツインテールの女の子を、「知っとるわ」と関西弁男子が遮る。
「ゆーちゃやろ? この前も自撮りバズっとったやん」
「え?」
きょとんとする私を前に、ゆーちゃは「えへへ」と照れ笑いを浮かべた。
「私、『エイティーン』って雑誌のモデルなの」
「すごい……!」
有名人と知り合うのは生まれて始めてかもしれない。
文字通り非の打ちどころのないルックスを備えた彼女は「よろしくね」とぺこりと頭を下げた。
「んじゃ、俺やな」
野菜にソースをかけながら、関西弁男子が話し始める。
「藤橋新、高三で実家は大阪。軽音楽部で去年は『バンスタ』に出たで」
「すごいね! それ、軽音の甲子園みたいなやつでしょ?」
歓声を上げるゆーちゃに、あらたは「まあな〜」と得意げに笑って見せた。
「んで、あんたは……かけるやったな」
あらたに振られたかけるは、「ああ」と静かに頷く。
「汐里翔、沖縄出身の高二。サーフィンが趣味だ」
「だからそんなにええ身体しとるんやなあ」
かけるは口数は少ないものの、体格は他の二人と比べて一回り大きかった。
あらたに褒められ、かけるは少しだけ困ったように瞳を伏せる。
「こう言う場は初めてなんだ。慣れてなくてすまない」
「いいんだって! これからよろしくね」
明るい声でかけるを慰めたりりころは「最後は……」と、好奇心に満ちた瞳をこちらへ向けた。
「ひまりも高二だったよね。どこから来たの? 趣味は? 部活は?」
次々と質問をされ、私は「えっと」と慌てて言葉を紡ぐ。
「出身は香川。地元はすごく田舎だし、所属してる放送部の活動も緩いんだ。でも……面接で『散歩が趣味』って言ったら、なんか合格しちゃって」
「ぶっ」
向かいに座っていたはるとが、飲んでいたジュースを噴き出しそうになる。
「散歩って。それうちのばあちゃんの趣味だよ」
「そ、そうだよね。でも本当に海岸とか歩くのが好きで」
「傑作。俺が面接官でも合格出すと思う」
はるとの言葉に、わっとテーブルが盛り上がる。
(……こ、こんな自己紹介でいいのかな)
期待していた展開とは異なる幕開けになってしまったものの――
明るい笑顔を浮かべるメンバーを前に、楽しい旅になりそうな予感が私の胸を弾ませた。