君と向き合う4週目。
文字数 1,724文字
手元に残るチケットは、あと四枚。
週末の昼下がり、私たちは都内の空港に呼び出されていた。
「さすがにこの展開は読めたよ」
再会するなり、りりころはビシッと指を突きつける。
「ズバリ、十枚のチケットを持ってたのはあたしとひまりとかけるね!」
「まあ、そうなるな」
私の隣で、かけるは涼しい顔で答える。
「とは言え、来週までこのメンバーのまま進めるつもりか?」
「確かに。このままじゃ男女の数が合わないし……って、わっ!?」
相槌を打っていた私は、突如肩に感じた衝撃に驚いて声を上げる。
ぽかんとする二人の視線に導かれるように顔を上げれば――
サングラスをかけた青年が、私の肩を抱いて微笑んでいた。
「はいどーも。俺が最後のメンバーです、っと」
サングラスを外すと、外国人と見紛うような彫りの深い顔立ちが現れる。
「いやあ、ちょうど今朝帰国したとこだったんだよね。あ、俺の名前は鷹司レオ。鷹司幸之助って言ったら、知らない人いないと思うけど」
「も、もしかして『世界の鷹司』の息子……!?」
「そーそー」
『世界の鷹司』と言えば、日本を代表する俳優だ。現在は拠点をアメリカに移し、ハリウッド映画で活躍していると聞く。
「ま、そんな訳でこれからよろしく。ちなみにこの企画って誰かとくっつけば勝ちなんでしょ?」
「勝ちって言うか……まあ、目的としては間違ってないけど」
「ふーん。じゃあやることは一つだね。君、攻略しやすそうだし」
レオににやりと笑いかけられ、嫌な汗が背中を伝う。
「んじゃ、そうと決まればさっさと行こうか。ヒマワリちゃん」
「ひまりです!!」
自由奔放な彼に抗議の声が届く訳もなく――
私はレオに引きずられるようにして連行されてしまうのだった。
*
「……はぁ」
自室のベッドで体育座りをした私は、深いため息をつく。
四週目にして突然登場した、新メンバーのレオ。
あの後すぐにりりころとかけるが追いかけてくれて事なきを得たものの――結局かけると二人で話をするチャンスは訪れなかった。
(残された時間は、あと一週間)
京都での出来事があってから、私は気付けばかけるのことを目で追うようになっていた。
私の隣に、ずっといてくれたかける。
確かに口数は少ないけれど、彼は私に大切なことを教えてくれた。
(本当は……もっとかけるのことが知りたい)
膝に顔を埋めた瞬間、傍らに置いたスマホが震え出す。
画面に現れた文字を見て、私は思わず息を呑んだ。
(……かける!?)
慌てて通話ボタンを押すと、画面にかけるが現れる。
「夜遅くに悪い」
「ううん。突然どうしたの?」
「ひまりが気になって電話した。今日、レオにちょっかいかけられてただろ」
彼の言葉に、じわりと体温が上がるのを感じる。
「ありがとう。確かにびっくりしたけど大丈夫だよ」
「そっか」
互いの間に、沈黙が流れる。
高鳴る鼓動を誤魔化すように、私はかけるに尋ねた。
「かける、外にいるの?」
「ああ。ランニングしてた」
「え、飛行機で帰った後なのに! すごいね」
「まあ日課みたいなものだし、走ってたらひまりのこと思い出して……それで」
少ない言葉の端々から彼の気遣いが伝わって来て、心がじんわりと優しい気持ちで満たされて行く。
「……かける、ありがとう」
「え?」
「私、かけるのおかげで……楽しかったよ。あっという間過ぎて寂しいくらい」
表情を変えずにこちらをじっと見つめていたかけるは、やがて「ひまり」と口を開いた。
「来週こそ、二人でデートしよう」
「……うん」
互いの間を、心地良い静寂が包み込む。
離れているはずなのに、手を伸ばせば触れることができそうで――
かけるとの初めての電話は、そんな不思議な感覚がした。
(来週は、いよいよ最終日)
電話を切ってから、私は壁にかけられたカレンダーを見つめる。
どんな結果になろうと、自分の気持ちに答えを出さなければならない。
(私の答えは――)
小さく深呼吸をして、私はベッドから立ち上がった。
週末の昼下がり、私たちは都内の空港に呼び出されていた。
「さすがにこの展開は読めたよ」
再会するなり、りりころはビシッと指を突きつける。
「ズバリ、十枚のチケットを持ってたのはあたしとひまりとかけるね!」
「まあ、そうなるな」
私の隣で、かけるは涼しい顔で答える。
「とは言え、来週までこのメンバーのまま進めるつもりか?」
「確かに。このままじゃ男女の数が合わないし……って、わっ!?」
相槌を打っていた私は、突如肩に感じた衝撃に驚いて声を上げる。
ぽかんとする二人の視線に導かれるように顔を上げれば――
サングラスをかけた青年が、私の肩を抱いて微笑んでいた。
「はいどーも。俺が最後のメンバーです、っと」
サングラスを外すと、外国人と見紛うような彫りの深い顔立ちが現れる。
「いやあ、ちょうど今朝帰国したとこだったんだよね。あ、俺の名前は鷹司レオ。鷹司幸之助って言ったら、知らない人いないと思うけど」
「も、もしかして『世界の鷹司』の息子……!?」
「そーそー」
『世界の鷹司』と言えば、日本を代表する俳優だ。現在は拠点をアメリカに移し、ハリウッド映画で活躍していると聞く。
「ま、そんな訳でこれからよろしく。ちなみにこの企画って誰かとくっつけば勝ちなんでしょ?」
「勝ちって言うか……まあ、目的としては間違ってないけど」
「ふーん。じゃあやることは一つだね。君、攻略しやすそうだし」
レオににやりと笑いかけられ、嫌な汗が背中を伝う。
「んじゃ、そうと決まればさっさと行こうか。ヒマワリちゃん」
「ひまりです!!」
自由奔放な彼に抗議の声が届く訳もなく――
私はレオに引きずられるようにして連行されてしまうのだった。
*
「……はぁ」
自室のベッドで体育座りをした私は、深いため息をつく。
四週目にして突然登場した、新メンバーのレオ。
あの後すぐにりりころとかけるが追いかけてくれて事なきを得たものの――結局かけると二人で話をするチャンスは訪れなかった。
(残された時間は、あと一週間)
京都での出来事があってから、私は気付けばかけるのことを目で追うようになっていた。
私の隣に、ずっといてくれたかける。
確かに口数は少ないけれど、彼は私に大切なことを教えてくれた。
(本当は……もっとかけるのことが知りたい)
膝に顔を埋めた瞬間、傍らに置いたスマホが震え出す。
画面に現れた文字を見て、私は思わず息を呑んだ。
(……かける!?)
慌てて通話ボタンを押すと、画面にかけるが現れる。
「夜遅くに悪い」
「ううん。突然どうしたの?」
「ひまりが気になって電話した。今日、レオにちょっかいかけられてただろ」
彼の言葉に、じわりと体温が上がるのを感じる。
「ありがとう。確かにびっくりしたけど大丈夫だよ」
「そっか」
互いの間に、沈黙が流れる。
高鳴る鼓動を誤魔化すように、私はかけるに尋ねた。
「かける、外にいるの?」
「ああ。ランニングしてた」
「え、飛行機で帰った後なのに! すごいね」
「まあ日課みたいなものだし、走ってたらひまりのこと思い出して……それで」
少ない言葉の端々から彼の気遣いが伝わって来て、心がじんわりと優しい気持ちで満たされて行く。
「……かける、ありがとう」
「え?」
「私、かけるのおかげで……楽しかったよ。あっという間過ぎて寂しいくらい」
表情を変えずにこちらをじっと見つめていたかけるは、やがて「ひまり」と口を開いた。
「来週こそ、二人でデートしよう」
「……うん」
互いの間を、心地良い静寂が包み込む。
離れているはずなのに、手を伸ばせば触れることができそうで――
かけるとの初めての電話は、そんな不思議な感覚がした。
(来週は、いよいよ最終日)
電話を切ってから、私は壁にかけられたカレンダーを見つめる。
どんな結果になろうと、自分の気持ちに答えを出さなければならない。
(私の答えは――)
小さく深呼吸をして、私はベッドから立ち上がった。