07s_呼んでくれ

文字数 1,784文字

(007)(1=32)

視点#ワイツ・イースト


はたして仏式は、守るべきこの街についてどれくらい知っていたのだろうか?

この地は、古来から続く世界の要だった。あらゆる国家や支配者がかつてこの地を求めて争ったの。しかし、裏を返せばここは独立を貫くには十分な力で満ちた土地、そこにいた住民たちはその恩恵にあずかり、つまりその戦火を何度も振り払って来たの。
それでもD地区と呼ばれたり、ドロン町と呼ばれたり、呪いのように群がる戦乱に翻弄されて治世者の形は変わっていた。それでも、その度に幾人もの英雄がまるで奇跡のように導かれ伝説と共に礎を築いていった。それももう今日で瓦解することになるけど・・。
この街は今日からラドガ様のものになる。最後の戦士が死んだ今、どんな救いももうない。伝説の最後なんて案外あっけないものね。

リャッケ:「これで、終わりだな。・・ゴーストもこれで報われることだろう」
ワイツ:「・・・」
仏式:「なあ、1つ約束してくれないか?」
ドートラス:「まだ息があるのか・・今楽にしてやろう」
仏式:「助からないさ、そんなこと自分が一番よく理解している。この街の人たちをどうする?」
ワイツ:「安心して、あなたの守りたかったこの街は必ず全部、心配なく守ってあげる」
仏式:「・・そうか」
リャッケ:「ワイツ。勝手にそんな約束、相手はサイキッカー。残留思念による能力の可能性もあるんだぞ」
ワイツ:「もともと、ラドガ様のご命令はそうだったはずよ」
ドートラス:「・・死んだか」

この街がどうなるかなんて私にはあまり興味がない。ラドガ様は必要だと言っただけで、どのような計画や慧眼の元であるかは計り知れない。ただそれだけのことだけど、死守しろと言った。それで私には十分だし仏式の願いをかなえることにも、絆されたわけじゃなく。・・いや違うわ。絆されたのよ。そうとしか言えない。この感情の揺らぎの正体について考えたのは彼がこ途切れて、私の勝手な行動にドートラスが注意をした時だった。

@@@

それはここに至る歴史があるからだ。
D地区の時には、当時の最強組織である『ルイーダ』から白の賢者と呼ばれたピースマスターが魔王から、自然発生する脅威から、寸前の所で救済した。その代償に、D地区は世界の法則が歪み死を拒むようになってしまったけど。
その後、それを利用するようにドロン町が成立する。ドロン町はこの復活の方法を利用した『代償と救済』で発展していく。でもその方法は自己完結できるシステムじゃなかったことから、常に外部から贄となる存在を求めたことで、たくさんの組織から狙われることになる。
この時も死贄だった赤城という・・のちのガードレッドの活躍で独立を保つことができたのだけども、それと引き換えにシステムは崩壊して後に残ったのは無尽蔵なエネルギー源だけ。その結果が今日の私たちに分譲された結果なら、本当に意味なんてあったのでしょうか?
でも・・少なくともここにあった物語は、私たちを奮い起こさせる。郷土愛だとか、愛だとか勇気だとか思春期前の乳臭い思想が、青臭くなく垂れ込んでくる。それがきっと、彼の最後の決意の微笑みにして憧憬におぼれさせる。その結果が組み込まれたみたいに哀愁の責みたいなものを生み出させて私を縛るんだ、その締め付け具合は心地よく、ついにここを私は守ると誓わせてしまったんだ。

@@@

歴史を踏襲してしまった。この街の呪いはこうして受け継がれていくのだろう。渡されたバトンは、例え見えずとも感じずともこの背景に確かに溶け込んでいて、ゆっくりと浸食して私の一部になっていく。吐いた息を感じる。ここは朝霜のように空気が強いのだ。

物語は続く。
私はここで呼び出されてその一部になっていく。語られるものなんてもうどこにもないのに。もっと言うと、語られる歴史なんてもうどうでもいいのだ。だって誰もそのバックグラウンドのことなんて気にしない。だってそうでしょう?もし本当にそんなものがあれば、有名な逸話になっているだろうし、そこには強力なまでの思いがあるはずだもの。でも結局それはなくて、こうしてそれはない方がましな位の羞恥心に包まれている。でも聞こえてしまうのは、私が語り部の今と語られる今の間にいて、認識している。悲しいけど、そうあるのだ。
それでも続くために呼び出されて意味を手にする。長い夕立が晴れて来た。
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